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大阪高等裁判所 昭和61年(う)681号 判決 1990年7月03日

本店所在地

大阪市西区立売堀一丁目一一番八号

日本空気力輸送装置株式会社

右代表者代表取締役 小泉恭男

本籍

大津市鳥居川町五九番地

住居

兵庫県西宮市甲子園五番町二番二三号

会社役員

小泉恭男

大正一五年一月二三日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、昭和六一年四月一六日大阪地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人両名から控訴の申立があったので、当裁判所は、次のとおり判決する。

検察官 大本正一、平田建喜 各出席

主文

原判決を破棄する。

被告人日本空気力輸送装置株式会社を罰金一四〇〇万円に、被告人小泉恭男を懲役四月にそれぞれ処する。

被告人小泉恭男に対し、この裁判確定の日から二年間その刑の執行を猶予する。

原審における訴訟費用のうち、証人川本嘉則、同坂中博志、同小川弘、同山内清蔵、同安達正一、同大竹輝夫、同多久島明、同西川正昭、同岡島一郎、同佐藤宏に関する分は、被告人両名の連帯負担とする。

理由

(本件控訴の趣意と答弁)

本件控訴の趣意は、弁護人丸尾芳郎、同岡島嘉彦、同池尾隆良、同藤原光一及び同正木隆造連名作成の控訴趣意書に、これに対する答弁は検察官酒井清夫作成の答弁書に、それぞれ記載のとおりであるから、これらを引用する。

(当裁判所の判断)

控訴趣意中、事実誤認ないし法令の解釈・適用の誤りをいう主張について

一  原判決の売上計上の時期に関する一般的基準を争う所論について

1  所論

論旨は要するに、原判決は、据付渡しと納入渡しという概念を設けて、被告人会社のなすべき作業が、前者の場合は、組立て・据付け・試運転等を行い予定された性能を発揮するよう調整することまで及ぶのに対して、後者の場合は、原則として機器等を指定場所まで持ち込むことで足りるとし、相手方のなす検収方法も、前者の場合は、予定された性能を発揮することを確認して検収するのに対して、後者の場合は、通例として指定場所に納入された機器等が仕様書に従い製作されているかどうかだけを確認して検収することで足りると認定・判断しているのであるが、被告人会社が取り扱う空気力輸送装置は輸送管内に空気又はガスの流れを作って粉粒体をパイプを通して輸送する装置であり、空気力輸送装置の特殊性(輸送する物質の性質が千差万別であるほか、設置する場所的条件も異なるところから、被告人会社がその経験と理論値に基づき空気力輸送装置を設計・製作しても、顧客の要望する条件で能力を発揮できるかどうかは、当該装置・機器を設置場所で組み立て据え付けて実際に無負荷運転・負荷運転などの試運転をしてみなければ判断しがたく、機器の製作についても、それが独立したものではなく装置全体を見て調整する必要がある。)から、取引の対象が装置であれ機器であれ、また、据え付ける主体が被告人会社であれ客先であれ、例外なく試運転による調整が必要であり、機器の搬入後も被告人会社がなすべき作業が残るところ、空気力輸送装置に関する装置・機器の取引は請負契約であって、被告人会社は同装置・機器がその性能を発揮することまで請け負っているものであり、試運転を経て空気力輸送能力が確認され、客先の検収により引渡しが完了するものであるから、空気力輸送装置・機器に関連する取引においては、単品の取引(相手方に引き渡した日が売上計上の時期となる。)を除き、装置・機器の取引はいずれも試運転が完了し、相手方が検収をした日が売上計上の時期となると解すべきであり、納入渡しの約定は、危険負担や運賃区分を定めたものに過ぎず、相手方の検収は代金支払いの手段に過ぎないものであって、被告人会社は、会計処理の確実性、継続性の原則を尊重する立場上、これまで売上計上の時期として工事完成基準を採用し、試運転による調整を行ったうえ客先が検収して初めてこれに対する報酬としての売上代金を計上してきたものであるから、原判決には、その認定した前示売上計上の時期に関する一般的基準について、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があり、ひいては売上計上の時期の判断につき法令の解釈・適用を誤った非違があり、破棄を免れない、などというのである。

2  当裁判所の判断

所論と答弁にかんがみ、記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討するに、原判決が「(争点に対する判断)」の部分で説示しているところは、当裁判所においてもおおむねこれを正当として首肯することができ、原判決に所論の指摘するような事実の誤認ないし法令の解釈・適用の誤りは存しない。

すなわち、空気力輸送装置・機器等の取引にあたり、契約に基づく義務の完了時点は、個々の契約によって異なってくるのは当然であるうえ、被告人会社が相手方に装置等を納入するまでの債務を負担するに過ぎないか、もしくは右装置等を納入し、組立て据付けたうえ試運転をするまでの債務を負担しているかという点は、契約上重要な意味を有し、これにより相手方の検収方法も、前者(納入渡し)の場合には、相手方は指定場所に納入された装置等が仕様書等に従い製作されているかどうかを確認して検収することになるが、後者(据付渡し)の場合には、相手方は被告人会社が据付けた装置等が予定された性能を発揮することを確認して検収を終えることとなり、その態様・効果に重大な相違を生じるものである。そして、関係証拠によれば、近時は機械工学的知識と技術の向上により、オイルショックによる経費節減を契機として、客先において機器の据付け等の工事部分を施行するようになり、空気力輸送装置・機器についても納入渡しがふえ、現に被告人会社と同業の三興空気輸送装置株式会社(以下、株式会社の名称を省略する。)では、機器の取引に関しては、客先の指定した場所に納入した段階で引渡しを完了し、客先がこれを検収して受取書を発行し、その受取書を受け取った日付を基準として売上に計上しており、空気力輸送装置一式の取引に関しても客先の方で据付けを行うという契約が存在(この場合は右装置一式を納入して客先から検収を受けた段階で装置にかかる販売対価の額を売上に計上する。)し、試運転調整費については別個の契約で定めることも多く、同業者の取扱いは一律に試運転後の検収時点を売上計上の時期として取り扱っているわけではないことが認められる。加えて、所論のように納入渡しの場合でもすべて試運転完了時を売上計上の時期とするならば、納入時の検収により、代金全額の支払を受けているのに、売上が計上されず、また、相手方の事情次第で組立て・据付けが延期、あるいは中止されることさえありうるのであるから、その売上計上の時期がきわめて不安定となるばかりでなく、実務上も、被告人会社が主張しているように、相手方が実施する組立て・据付け及びその後の試運転の時期を的確に知ることは困難であるという不都合を生じるのである。結局・納入渡しの場合でも試運転完了時を売上計上の時期とする所論は、空気力輸送装置の特殊性を強調するあまり、被告人会社の負うべき契約義務の内容とその後の売り主の責任を混同しているきらいがあるといわざるを得ない。

以上のとおりであるから、売上計上時期の一般的基準に関する原判決の認定・判断は正当であり、その他所論がるる主張するところを検討・考慮しても、右結論を左右するに足りない。論旨は理由がない。

二  原判決の売上計上時期の具体的認定を争う所論について

論旨は要するに、原判決には、以下に掲げる工事番号に関する個々の取引の売上計上時期の認定について、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があり、ひいては売上計上時期の判断につき法令の解釈・適用を誤った非違があり、破棄を免れない、というので検討するに、所論は、大きく分けて、1売上計上の時期についての一般的基準を問題としているもの、2契約の解釈(契約の一体性)を問題としているもの、3契約の解釈(契約に「ある債務」が含まれているかどうか)を問題としているもの、4具体的事実認定を問題としているものの四つの類型に分けられるので、右分類に従って考察する(以下、工事番号と売上先により契約を特定し、工事番号を「工番」と略記する。)。所論に対する当裁判所の判断は以下に述べるとおりであるが、結論として、所論のうち工番七四〇五番(中央工機産業)の取引に関する部分については理由があるが、その余の工番にかかる取引に関する部分については、いずれも理由がないことに帰着する。

1  売上計上の時期についての一般的基準を問題としているもの

<1> 工番七四六二番(第一実業)について

ア 所論

所論は要するに、原判決は、被告人会社は旭化成工業(第一実業を通じた分を含む。)(以下、会社の名称は「旭化成工業」や「第一実業」など原判決で使用された略称を用いる。)に対してHFM用ニューマ機器と排気フィルターを同社水島工場渡しで引き渡す旨の約定をし、旭化成工業が五一年三月末にはこれを検査して受領し、その支払手続をなしたから、五一年三月末には検収を受けたものとして、売上に計上すべきである旨認定しているが、売上計上時期に関する一般的基準について、被告人会社は、機器を据付け後試運転して性能を達成したことを確認しなければ被告人会社の負う債務は終了しないので、機器を相手方工場に搬入しただけでは検収が終わったとすることはできないところ、本件工事は据付けがなされる以前に旭化成工業によって中止されてしまったのであるから、工事中止以前の時期において検収がなされたことなどありえず、商社(第一実業)の売上計上の時期から検収があったと推論する点については、商社(第一実業)が本件契約に介在するのは発注者と請負人との間に立ち信用を供与することによってコミッション収入を得るのが目的であるのだから、被告人会社が工事完成時を売上計上の時期とするのとまったく事情を異にしており、商社(第一実業)の売上計上の時期から検収があったと推論するのは理論的ではなく、本件プラント建設工事は機器を納入後中止となり、機器の大半は他に転用され、一部は被告人会社が交渉のすえ五二年六月引き取ることとなったのであるから、引取りは実質的には代金支払の条件、値引の話であって、これを実質に従って一体のものとして処理したことにつき合理性があり、右引取りは五二年六月であるので、結局五三年五月期の売上に計上すべきであるのであるから、前示のとおり認定した原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があり、ひいては売上計上の時期の判断につき法令の解釈・適用を誤った非違があり、破棄を免れない、というのである。

イ 当裁判所の判断

そこで、所論と答弁にかんがみ記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討するに、原判決が「(争点に対する判断)」の部分で説示しているところは、当裁判所においても、おおむねこれを正当として首肯することができ、原判決に所論のような非違は存しない。すなわち、関係証拠によれば、本件契約は納入渡しの約定であると認められるところ、納入渡しの場合には、被告人会社が機器を相手方の指定する場所で引き渡し、相手方が右機器の引渡しを受けてこれを検収した以上、被告人会社はそのときに売上を計上すべきであることは、前示のとおりである。その後の試運転ができなかった事情や引き取り交渉は売上計上の時期とは無関係であって、所論は前提を異にし、採用しがたい。また所論は、商社(第一実業)の売上計上の時期から検収があったと推論する点を論難するが、旭化成工業経営管理部の太田及び小川連名作成の「第一実業(日本空気力輸送)との取引について」と題する書面(原審検第二〇三号証)によれば、本件契約に関する検収年月日の欄には五一年三月、支払年月日の欄には五一年四月、一五〇日手形という記載があり、旭化成工業自身も五一年三月に検収したことが窮われ、その他所論がるる主張する点を検討・考慮しても、原判決の認定・判断には誤りはなく、論旨は理由がない。

2  契約の解釈(契約の一体性)を問題としているもの

<1> 工番七三八八番(第一実業)について

ア 所論

所論は要するに、原判決は、被告人会社が第一実業から受注した3MEXエポキシフレーク空送設備一式と旭エンジニアリングから受注した3MEXフレーク輸送設備予備品とは、発注者も異なる別個のものというべきであり、前者は遅くとも四九年六月末には旭エンジニアリングが据付け試運転をして検収したものと認められ、後者は単品であるが、遅くとも五〇年三月末までには同社に引渡し、その検収を受け終わったものと認められる旨認定・判断しているが、前者については、四九年一〇年二九日付で3MEX装置用ロータリーバルブで改造等の仕様変更が行われているが、このことは押収してあるファイル(当審昭和六一年押第二九三号〔原審昭和五四年押第一九七号〕の三九)に、四九年一〇月二九日付の3MEX装置用ロータリーバルブ改造外一式についての見積書(工番七三八八-二)が存在していることから明らかであり、また、同ファイルの「旭化成水島AHS外工事追加工事契約決定通知」という書面には、「仕様変更現地追加工事費」と記載されているので、この仕様変更は工番七三八八番に対する追加工事であって、本体の3MEXエポキシフレーク空送設備一式の工事と一体をなすものであることが明らかであり、右追加工事については、五〇年六月一九日に被告人会社の吉岡一志が検査しているのであるから、旭エンジニアリングの検収の時期はそれ以降ということになり、ロータリーバルブの改造等を行った時期が五〇年三月二七日発注のあった後者の3MEXフレーク輸送設備予備品の注文時期と一致することから、被告人会社が前者と後者を一体のものとして売上に計上したことは合理的であるのであるから、前示のとおり認定・判断した原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があり、ひいては売上計上の時期の判断につき法令の解釈・適用を誤った非違があり、破棄を免れない、というのである。

イ 当裁判所の判断

所論と答弁にかんがみ記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討するに、原判決が「(争点に対する判断)」の部分で説示しているところは、当裁判所においても、おおむねこれを正当として首肯することができ、原判決に所論のような非違は存しない。すなわち、関係証拠によれば、第一実業が発注した3MEXエポキシフレーク空送設備一式の契約は据付け試運転渡しの約定であるところ、旭エンジニアリングが五〇年三月二七日発注した3MEXフレーク輸送設備予備品は、右空送設備一式予備機器であるから、被告人会社が納入し旭エンジニアリングが検収した空送設備一式とは別個であって、これによって両契約が一体となるわけではなく、それぞれ別個に売上を計上すべきであり、これと同旨の認定・判断をした原判決は正当である。

<2> 工番七四〇二番、七四〇三番(第一実業)について

ア 所論

所論は要するに、原判決は、工番七四〇二番と工番七四〇三番とは別個の工事であり、前者については、四九年七月二日付の旭化成工業の物品受領書があり、その後、第一実業が同年七月二二日付で売上及び仕入を計上していることからすれば、同年七月二日注文者による納入後の検収が終ったものと推認され、後者については、同様にして、納入を確認して第一実業が売上を計上した五一年二月二六日には旭化成工業の検収が終ったとし、工番七四〇二番の売上については四九年七月二日に、工番七四〇三番の売上については五一年二月二六日に、それぞれ計上すべきである旨認定・判断しているけれども、被告人会社は、当初SHSスタイロン輸送設備機器一式を受注し、四九年五月二九日ころ納入したが、仕様変更などがなされて試運転が遅れ、客先の期待した稼働能力が発揮されず、新たな機器(二方切換弁一式・ロータリーバルブ一式)を増設しなければならなくなり、その注文を受けたのが後者の工事であり、これを前者の輸送設備に組み込んで一体の工事とし、右設備一式の試運転・検収が五一年七月になされたので、同月をもって売上計上時期とすべきであるから、前示のとおり売上計上の時期を認定・判断した原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があり、ひいては売上計上の時期の判断につき法令の解釈・適用を誤った非違があり、破棄を免れない、というのである。

イ 当裁判所の判断

所論と答弁にかんがみ記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討するに、原判決が「(争点に対する判断)」の部分で説示しているところは、当裁判所においても、おおむねこれを正当として首肯することができ、原判決に所論のような非違は存しない。すなわち、関係証拠によれば、被告人会社は工番七四〇二番に関して四九年五月二九日付で前示SHSスタイロン輸送設備機器一式を納品請求しているが、工番七四〇三番に関して五一年二月二五日付でSHSニューマ予備品の注文を受けたもので、その間に相当期間が経過していること、各工事について工事番号をそれぞれ別個に付け、工番七四〇二番の工事については、四九年七月には旭化成工業が物品受領書を発行し、第一実業が売上と仕入を計上していること、同工事の代金については値増し交渉があったが五〇年二月に値増し金が支払われていることが認められ、また、証人柏原及び同榊原らの証言が採用できないことは原判決の指摘したとおりであって、これらの諸点に照らせば、工番七四〇二番と工番七四〇三番とは別個の取引であるので、工番七四〇二番の売上については四九年七月二日に、工番七四〇三番の売上については五一年二月二六日に、それぞれ計上すべきである、と認定・判断した原判決は相当である。所論は更に、押収にかかる「第一実業株旭ダウ水島3MEX向ロータリーバルブ改造RV-8改、RV-8新」のファイルの中にある四九年一〇月三〇日付「旭化成水島AHS外工事追加工事契約決定通知」によれば、工番七四〇二番のすぐ後に三という記載があることなどから、この当時からすでに両工番の工事が一体のものとしてあったのであるから、工番七四〇三番の工事が五〇年六月二日付見積書提出により始まったという原判決の認定・判断には誤りがある、というので検討するに、前示ファイルには所論のとおりの記載が認められ、工番七四〇三番の工事が四九年一〇月三〇日から開始したとしても、これをもって前示判断を揺るがすものではなく、また所論が、本件工番(七四〇二番)につき、原判決が第一実業の売上及び仕入の計上時期をもって旭化成工業の検収が終了したと認定した点をとらえて、工番七四〇六番に関するそれとの間に矛盾するかのような主張をする点についても、原判決は同工番に関しては、「右認定の事情に照らすと」第一実業の売上計上から旭化成工業の検収が終ったと考えることはできない、としているのであるから、原判決に所論のような矛盾はなく、その他所論がるる主張するところをつぶさに考慮・検討しても、原判決を覆すに足りず、原判決には所論のような事実誤認や売上計上の時期に関する法令の解釈・適用を誤った非違は認められない。所論は理由がない。

<3> 工番七四五六番(三井造船)について

ア 所論

所論は要するに、原判決は、被告人会社が四九年五月三一日三井造船から受注したスライドダンパーAC二八台、ロータリーバルブ一八台、二方切換弁二〇個の取引(代金四八〇〇万円)は遅くとも五〇年九月二三日に、その後のスライドダンパー(スライドゲート弁のこと)等の仕様変更に伴う追加工事(代金四〇〇万円)は五一年一一月三〇日に、それぞれ検収を受けており、その間の注文納入過程をも考えれば、両者は別個の契約であり、前者の工事については、現地での技術指導は別途の契約事項となっていたと解されるから、五〇年九月二三日に売上を計上すべきものである、と認定・判断しているが、後者の追加工事は、前者の空送工程の設計変更に伴うもの(スライドダンパーをアルミ製からステンレス製に変更した。)であり、全体の受注としては仕様変更により五二〇〇万円の受注となり、仮に変更後の検収が五一年一一月三〇日であると判断するとしても、その売上計上時期は同日となり、五〇年九月二三日ではありえないので、原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があり、ひいては売上計上の時期の判断につき法令の解釈・適用を誤った非違があり、破棄を免れない、というのである。

イ 当裁判所の判断

所論と答弁にかんがみ記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討するに、関係証拠によれば、被告人会社が三井造船から受注したのは、三井石油化学工業が中国技術進口公司(以下、「公司」ともいう。)から請け負ったポリプロピレンを生産するプラント建設の設備関連機器であり、機器納入後原判示のとおり検収を受けてそれぞれ代金が全額支払われたこと、四八〇〇万円の工事に関する試運転立会についても、被告人会社は発注者である三井造船から要請があったときに協力する約定であったに過ぎず、現実にも現地に赴いていないことなどが認められ、仮に所論のとおり後者の追加工事が、前者の空送工程の設計変更に伴うもの(スライドダンパーをアルミ製からステンレス製に変更した。)であったとしても、それは別個の注文で、金額も別個に決められ、納入も別個であるのであるから、契約が一体となるものではなく、売上計上の時期はそれぞれ別個に判断すべきであり、原判決が「(争点に対する判断)」の部分で説示しているところは正当であってこれを首肯することができ、原判決に所論のような非違は存しない。所論は理由がない。

<4> 工番七四〇五番(中央工機産業)について

ア 所論

所論は要するに、原判決は、被告人会社が納入した機材等の組立据付け、試運転指導等を行ったのは、被告人会社が機材等を納入した契約とは別個の契約に基づくものであり、後者(機材等を納入した契約、すなわちプラント設備に係る空気力輸送装置の受注契約)の売上は四九年一〇年三〇日ないし五〇年四月一六日(五〇年五月期)に、前者(納入した機材等の組立据付け、試運転指導等、すなわち技術者派遣及び追加工事の受注契約)の売上は五一年六月(五二年五月期)にそれぞれ計上すべきである、と認定・判断しているが、被告人会社はCPEプラント用空気力輸送装置一式の受注契約を締結した当初から、同装置の据付け試運転指導等義務を負っており、その義務を果たすまでは契約上の債務の履行が完了しておらず、たとえ代金全額を受領してもそれは前受金の性質を有するに過ぎない以上その売上を計上できないので、被告人会社において右義務を履行し検収通知を受けた五二年一〇月(五三年五月期)に前示空気力輸送装置一式に関する全売上を計上すべきであるから、原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があり、ひいては売上計上時期の判断につき法令の解釈・適用を誤った非違があり、破棄を免れない、というのである。

イ 当裁判所の判断

所論にかんがみ記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討したうえ、以下のとおり判断する。

本件の争点は、被告人会社がCPEプラント用空気輸送装置一式の受注契約を締結した際、同装置の据付け後の試運転指導等まで請け負ったか否かであるところ、原審及び当審で取り調べられた関係証拠によれば、前示空気力輸送装置一式を受注した契約とCPE用ニューマ据付指導を受注した契約等とは実質的には一個の契約であって、同装置一式は五二年八月ないし一〇月に試運転を終了し、引き渡され、検収を受けたのであるから、その売上計上の時期は五三年五月期であると認定できる合理的疑いが残り、結局、原判決は売上計上の時期について事実誤認があるというべきである。

すなわち、被告人会社が四九年一二月一〇日中央工機から受注した空気力輸送装置一式の契約(註文書、原審昭和五四年押第一九七号の四八)と五一年六月九日CPE用ニューマ据付指導を受注した契約等とは別個であること、本件プラントに関して被告人会社と同様の立場に立つ宮田エンジニアリング、日本製鋼所などの他社が別個の契約として個別に売上に計上していること(原審証人小野和彦、同泉谷尚信の各供述部分)同業者である三興空気輸送装置株式会社の取扱い(原審証人亀井克己の供述部分)及び日立製作所や中央工機との間で代金の一部を留保する旨の約定がなされておらず、被告人会社が日立製作所の検査を受けたうえ納入指定場所に搬入して引渡しを完了してまもなく代金の全額が支払われていることなどに照らすと、原判決の認定もこれを首肯し得ないわけではない。

しかしながら、関係証拠に照らすと、<1>甲・中国技術進口総公司(以下、「公司」という。)、乙・三菱油化、丙・日立製作所等は、四八年七月二五日「エチレンを原料とし低密度ポリエチレンを生産するプラント」(契約番号CJ七三四〇)と題する契約書(原審検第八五号証、以下、「原契約書」といい、この契約を「原契約」という。)を取り交わし、乙はエチレンを原料とし空気を触媒として低密度ポリエチレンを生産するプラント装置(契約工場)を供給し、公司はこれを購入する、乙はそのために生産設備等を供給する責任を負い、同時に設計資料等を提供し、熟練した技術者を契約工場に派遣する、右技術者の職責及び派遣費用等については別途協議調印すること等を取り決めたこと、乙は四九年四月一一日公司と「技術者の派遣に関する補充契約書」(原審検第八五号証、以下、「補充契約書」といい、この契約を「補充契約」という。)を取り交わし、乙の派遣する技術者の職責と任務の内容につき、原契約に規定された施工、据付け、試運転、仕込試運転、確認運転及び検収に関連する乙が負うべき責任と義務を履行するなどを合意し、そのための専門職務、人数及び勤務時間の目標、技術指導費等を合意しているので、乙は、前示補充契約(原審検第八五号証)によって初めて技術者を派遣し技術指導を行う義務を負ったのではなく、当初の前示原契約(原審検第八五号証)において、既に、技術者を派遣し技術指導を行う義務を負っており、ただ技術者の職責及び甲が負担すべき技術者の派遣費用は別途協議することとされたので、これに基づき甲・乙間で前示補充契約書を締結し、乙の派遣する技術者の人数、派遣期間及び甲の支払うべき費用を具体化したに過ぎないこと、<2>本件空気力輸送装置一式に関する契約金額は二億五四八〇万円というきわめて高額であるところ、被告人会社の他の取引では受注金額が比較的高額な契約(例えば、工番七三五二番、七三六九番、七三七五番、七三八八番等)については、据付渡しが少なくないこと、<3>公司は乙・丙の技術指導を受けずに独力で本件空気力輸送装置の据付け、試運転を遂行できるだけの技術の持ち合わせがないところ、日立製作所は本件空気力輸送装置の据付け、試運転を遂行するだけの技術を持ち合わせてはいても、コスト面から技術指導だけを引き受ける意思はなかったこと、<4>中国向けCPEプラント契約内容明示書(原審弁第八七号証)は、その納入形態の欄に「FOB&据付単体試運転指導」と記載されていて、試運転指導まで原契約の契約内容に入っていることが明記されているのであるから、被告人会社は本件装置一式を受注した当初から技術者を派遣すべき義務を負っており、右契約代金二億五四八〇万円の中には、試運転据付け等のための技術者派遣の費用も含まれており、ただ、技術者の派遣先が中国であり、渡航の期間、人数等につき不明確な点があったため、派遣者の旅費宿泊費等の実費は別途支給することとし、それを後日決めたに過ぎないと解される余地も十分にあること、<5>被告人会社作成の四八年八月六日付仕様書(原審検第八五号証)の(4)施行工事範囲区別欄の「試運転調整」の項に「別途」と記載されている文言については、甲と乙の原契約書により既に技術者の派遣が予定されており、甲の負担すべき費用だけ別途協議により決められることになっていたのであるから、甲の負担すべき費用を別途に請求するという意味と解することができること、<6>中央工機が日立製作所宛に作成した五一年三月三一日付御見積書(原審検第八五号証)でも三二〇万円(CPEプラント製品混合輸送設備据付指導員派遣費)の内訳は技術者の派遣に要する実費弁償であって、現実に派遣員の旅費、食事代、日当が支払われたに過ぎず、報酬などは支払われていないことが認められ、以上のような事実に、被告人会社が本件代金を全額受領して日立製作所や中央工機が代金を一部留保していないのは、被告人会社として公司の据付け試運転が何時になるかわからないのでとくに日立製作所に要請して全額を支払ってもらった旨の原審公判廷における証人川崎祐弘、同神崎公生の各証言を一概に措信できないとして排斥できないことを併せ考えると、被告人会社はCPEプラント用空気力輸送装置一式の受注契約を締結した際、同装置の据付け後の試運転等及び性能値達成義務まで請け負ったもので、「被告人会社が四九年一二月一〇日中央工機から受注した空気力輸送装置一式の契約(註文書)と五一年六月九日CPE用ニューマ据付指導を受注した契約とは実質的には一個の契約(FOB&スパーバイズ契約)であり、同装置一式は五二年八月ないし一〇月に試運転を終了して引き渡され、検収を受けたのであるから、その売上計上の時期は五三年五月期であると認定できる合理的疑いがある。」従って、原判決には本件売上計上の時期(売上繰延べ)について事実誤認があると言わざるを得ず、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由がある。

3  契約の解釈(契約に「ある債務」が含まれているかどうか)を問題としていもの

<1> 工番七四〇六番(第一実業)について

ア 所論

所論は要するに、原判決は、被告人会社は第一実業を通じて旭化成工業から原判示ペメックス向けのプラント設備に係る空気力輸送装置関係の設計及び仕様書作成を請負ったに過ぎず、設計・仕様書に基づく組立て据付け等の現地指導までは請け負っていないので、旭化成工業が右設計・仕様書を検収した時期であると推定される五〇年八月末をもってその売上を計上すべきである、と認定しているが、被告人会社は前示請負契約によりその設計及び仕様書の作成はもちろんそれに基づく組立て据付け等の現地指導までも請け負っており、その売上計上の時期は五〇年八月末ではあり得ない(五〇年八月は第一実業が旭化成工業から残代金三〇〇万円の支払を得た時期であり、検収の時期とは関係しない)のであるから、原判決は請負契約の内容等の実体を理解せず、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があり、ひいては売上計上の時期の判断につき法令の解釈・適用を誤った非違があり、破棄を免れない、というのである。

イ 当裁判所の判断

所論と答弁にかんがみ記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討するに、原判決が「(争点に対する判断)」の部分で説示しているところは、当裁判所においても、おおむねこれを正当として首肯することができ、原判決に所論のような非違は存しない。

すなわち、関係証拠によれば、<1>旭化成工業は四八年四月一四日ペメックスとの間で「PETOROLEROSと旭化成工業株式会社間の高密度ポリエチレンに関するライセンス及びエンジニヤリング契約」(原審検第九二号証、以下、「ペメックスとの契約」という。)を締結し、高密度ポリエチレンに関する技術・エンジニアリング・機器の調達サービス・プラント設備の現地建設に関する据付け・運転の指導等について取決めをしたこと、<2>旭化成工業は、右の技術調達につき、自社で設計できない部分の設計業務一式を外部へ委託することにし、商社である第一実業から四八年一一月九日付見積書(設計費用一二〇〇万円、図書代・出張打合せ費・英訳代・一般管理費三〇〇万円)の提出を受けたうえ、同年一二月二六日第一実業に対し、空気力輸送設備の設計業務一式を代金一五〇〇万円、受渡場所及び送り先を旭化成工業水島工務部、運賃負担区分を設計資料提出後渡しという約定で発注したこと、<3>第一実業は更にこれを被告人会社に対して一四五五万円で発注し、被告人会社は本件設計書、仕様書を作成して提出したうえ、第一実業に対し五〇年一月一三日付請求書(二月一〇日一〇〇〇万円、三月一〇日残との記載あり。)により設計費一式一四五五万円を請求したこと、<4>旭化成工業は、五〇年二月に一部検収をしたとして、同年三月第一実業に対し一二〇〇万円を支払う手続きをしたが、一部仕様書の変更を指示し、五〇年八月変更された仕様書を受け取って検収を完了し、残金三〇〇万円を第一実業に支払ったこと、<5>第一実業は、五〇年二月一三日旭化成工業の検収を受けたとして、同日一五〇〇万円の売上を計上するとともに一四五五万円の仕入を計上し、同年四月一〇日被告人会社に対して内金一一六四万円を支払い、その後旭化成工業から残金の支払を受けた後、五一年九月一〇日残金二九一万円を支払っていること(なお、商社である第一実業は、五〇年二月一三日に売上及び仕入を計上しているけれども、本件の認定事情に照らすと、右の一事をもって、五〇年二月当時相手方たる旭化成工業の検収がすべて終っていたと考えることはできない。)、<6>被告人会社はこのころまでに契約代金の全額を受け取ったこと、<7>被告人会社において右残金を受け取るのが遅れたのは、とくに被告人会社において履行すべき債務が残っていたからではなく、第一実業側の営業ミスにより支払が遅延したに過ぎないこと、<8>旭化成工業自身は空気力輸送装置(ニューマ機器・配管)の現地工事・試運転立会等の技術能力がないわけではないので、被告人会社が必ずしも旭化成工業に代わって現地指導に赴かなければならないわけではなく、現実にも被告人会社は現地指導に赴いておらず、結局旭化成工業が、被告人会社から旭化成工業に配管要領書や試運転要領等の送付を受けて五四年五月現地工事、試運転立会等を完了させていること、<9>仮に所論のとおり、被告人会社に当初から現地での立会テスト・現地工事指導員派遣等の契約上の義務があったとすれば、旭化成工業が被告人会社に代わって同債務を完了させたことに対する事後的な金銭上の精算がなければならないと考えられるのに、そのような精算が行われた形跡はまったく窺われないことなどが認められる。

以上によれば、本件において被告人会社は、空気力輸送装置関係の据付等の現地指導までは請け負ったわけではなく、その設計・仕様書作成を請け負ったものに過ぎず、しかも五〇年八月末には被告人会社が提出した仕様書等について旭化成工業の検収を受けたものと認められる。

ところで所論は、第一実業の従業員として被告人会社との取引に現実に関与した証人佐藤宏が被告人会社は現地のメキシコで試運転に立ち会うことになっていた旨を証言しているにもかかわらず、原判決はその証言を信用せず、営業経理を担当しているに過ぎない証人川本嘉則及び同小川弘の証言を採用したのは不合理であるとか、「業務分担詳細」と題する書面(原審弁第一五号証)の「立会テスト」及び「現地工事指導員」の各欄にはいずれも「派遣」と記載され、前者の備考欄には「必要に応じてPEMEX指示と判断にて決定」と、後者の備考欄には「PEMEXのAPPROVALに基づく。但し別途精算とする。」と記載されている点をとらえて、これは被告人会社が組立て据付け等の現地指導員を派遣すること自体は決定されているが、ペメックスとの契約の第三条二項に規定されたペメックスが決定した「人数並びに期間」に従うという意味なのである、と主張するので検討するに、前示証拠によれば、確かに前示書面には指摘される各欄にいずれも「派遣」と記載されているものの、前者の備考欄には「必要に応じてPEMEX指示と判断にて決定」と、後者の備考欄には「PEMEXのAPPROVALに基づく。但し別途精算とする。」と記載されているのであるから、被告人会社は必要がなければ立会テストのために人員を派遣しないし、ペメックスの同意がなければ現地工事指導員を派遣することもないと考えられること、被告人会社は前示のとおり現に現地指導に赴いていないこと、契約代金についても、被告人会社は前示のとおり代金金額を受け取っているのであるが、旭化成工業が現地工事、試運転立会等を完了させた後も、同社との間で事後的な金銭上の精算を行った形跡がまったく窺われないことなどの諸点に照らすと、前示書面に「派遣」という記載がある点をとらえて、被告人会社が組立て据付け等の現地指導員を派遣することまで請け負っていると認めることはできないし、また、被告人会社が現地のメキシコで試運転に立ち会うことになっていた旨の前示佐藤宏の証言も前示諸点に照らしてにわかに信用できない。所論は更に、証人港がペメックス関係で五〇年一〇月旭化成工業の担当者と設計図面の作成打合せをし、同年九ないし一〇月に出張した、と主張するが、この点に関して所論を採用できないことは、原判決が詳細に説示したとおりであるので、これを引用することとし、その他所論がるる主張するところをつぶさに考慮・検討しても(なお、弁護人は当審における弁論において、本件工事は被告人会社が第一実業を介して旭化成工業から受注したメキシコ、ペメックス向け空気力輸送装置一式の一部であって、メキシコ側の要請で、機器の製作に関する工番七四四六番等の注文と技術供与に関する本件工番(七四〇六番)の注文とに分けたものであって両者は一体の工事である旨主張するが、本件証拠を子細に検討しても、右主張を認めるに足りる証拠は見あたらず、仮に、右主張のとおりであったとしても、被告人会社が本件工番(七四〇六番)に関して空気力輸送装置関係の据付等の現地指導まで請け負っていないことは既述のとおりであるので、本件工番に関する売上計上の時期が前示七四四六番等の機器などが完成し検収を受けるまで繰り下がるものとは到底解されない。)原判決を覆すに足りず、原判決には所論のような事実誤認や売上計上の時期に関する法令の解釈・適用を誤った非違は認められない。所論は理由がない。

<2> 工番七五六八番(神戸製鋼所)について

ア 所論

所論は要するに、原判決は、英文資料の提出は機器の指定場所に納入する契約に付帯した事項と解され、主要な債務の内容と解することはできないので、英文資料の提出がなくても、機器を納入し相手方の検収を受けた五一年三月一五日をもってその売上を計上するのが相当であると認定・判断しているが、本件機器は輸出品であり完成図面、取扱説明書を英文で作成する必要があったところ、被告人会社が株式会社神戸製鋼所(以下、「神戸製鋼所」という。)から求められた英文資料の作成・提出の債務がたとえ主要な債務でないとしても、主要な債務が完了したら売上に計上すべきであるとする売上基準は存するはずがないので、前示のような認定・判断をした原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があり、ひいては売上計上の時期の判断につき法令の解釈・適用を誤った非違があり、破棄を免れない、というのである。

イ 当裁判所の判断

所論と答弁にかんがみ記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討するに、関係証拠によれば、被告人会社は神戸製鋼所からMMICチッピングバルブASM一式を代金五四万五〇〇〇円、納期五一年二月二〇日、三か月据置現金払い、丸永梱包持込渡しの約定で受注したこと、確かに神戸製鋼所作成の引合仕様書(原審弁第六〇号証)の提出書類の項には、見積時の欄に、「和文・見積書(三部)・予想パッキングリスト(三部)」と、契約時及び納入時の各欄に、「英文・契約時の打合せによる」との各記載が認められるが、証人港は、実際の商品納入後、英文にして出すように仕様書が変わっていたので、英文の書面を送るのが納入後二、三か月遅れたとか、契約時は和文で進めていたので、納入時に英文の図面が間に合わなかった旨証言していること、関係証拠によるも被告人会社は英文資料の提出が遅れたことについてペナルティーも課せられたとは窺われないこと、本件の受注代金額が五四万五〇〇〇円であって必ずしも高額とはいえないことなどの諸点に照らすと、英文資料の作成・提出の債務は、本契約の内容には含まれていないと解するのが相当であり、従って、被告人会社が機器を納入し相手方の検収を受けた五一年三月一五日において、未だ英文資料の提出がなかったとしても、同日をもって売上を計上すべきであると判断でき、結論として右と同じ売上計上時期を認定・判断した原判決には、所論のような事実誤認や売上計上の時期に関する法令の解釈・適用を誤った非違は認められない。論旨は理由がない。

4  具体的事実認定を問題としているもの

<1> 工番七三五二番(東洋曹達)について

ア 所論

所論は要するに、原判決は、五〇年二月二〇日には本件空気力輸送装置を据付試運転後相手方の検収を受け終わった旨認定・判断しているけれども、「七五・二・二〇炉布、耐圧限度、保証期間について文書受理により出口切替弁、取り替えにてOKとする」というメモ書き(楠本純一の尋問調書添付の入荷データ中のメモ書き)の記載は、東洋曹達が「出口切替弁、取り替え(をすること)にて」という条件で、OKしたものであって、その日に機器が完成したという記載ではなく、右出口切替弁である「三方分岐ダンパー」が完成して初めて機器が完成したことになるのであるから、これまでに検収があったとして前示のとおり認定した原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があり、ひいては売上計上の時期の判断につき法令の解釈・適用を誤った非違があり、破棄を免れない、というのである。

イ 当裁判所の判断

所論と答弁にかんがみ記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討するに、関係証拠によれば、東洋曹達は被告人会社に対し、自社南陽工場に空気力輸送装置を、代金六六〇万円、月末締切五か月後払い、納期四九年八月二〇日、据付渡しの約定で発注し、同年九月二九日バックフィルター払い落し装置作動不良のため修理させて、五〇年二月二〇日出口切替弁取り替えにより検収を終えたこと(証人楠本純一の証言、同人作成の回答書)、「七五・二・二〇炉布、耐圧限度、保証期間について文書受理により出口切替弁、取り替えにてOKとする」旨の記載があること(同人の尋問調書添付の入荷データ中のメモ書き)、被告人会社の従業員らが四九年九月一八日から同年一一月八日まで配管指導等打合せや試運転立会いなどのため出張をしていること(被告人会社の出張精算書綴)のほか、東洋曹達は本件空気力輸送装置の検収が終わったので約定(月末締め五か月後払い)どおり五〇年七月三一日代金六六〇万円を全額支払っていること、所論の出口切替弁である「三方分岐ダンパー」に関する取引は、前示支払時期から約三か月も経過した同年一〇月三〇日に発注されたことなどが認められ、以上の諸点に照らせば、仮に「三方分岐ダンパー」が取り替えを要する前示本件空気力輸送装置の出口切替弁であったとしても、「三方分岐ダンパー」の取引は本件空気力輸送装置の取引とは別個の追加注文であって、五〇年二月二〇日には相手方の検収を受け終わった旨認定した原判決の判断は正当であり、所論は理由がない。

<2> 工番七三六九番(千代田組)について

ア 所論

所論は要するに、原判決は、被告人会社は四九年九月ころから機材等を納入して組立据付けをなし、四九年一二月千代田組から改定された代金一四〇〇万円の七割に相当する九八〇万円の支払を受け、その後五〇年三月二八日ころ試運転したこと、そして千代田組は、五〇年三月日本イトン工業側が検収したとして同社に対し売上を計上し、その後被告人会社から五〇年八月二九日付で残代金四二〇万円を請求され、同年九月残代金を支払っていることから、本件工事は、日本イトン工業側により、五〇年三月末には据付試運転後検収されたものと推認される旨認定・判断しているが、まず原判決が証人鳥越征二(以下、「鳥越」という。)の証言を採用しなかった点を論難し、検収に立会う被告人会社の従業員は技術社員である必要はなく、鳥越のように営業社員であることもあり、かつ、その場合の費用は一般管理費販売費として計上しているのであるから、鳥越の旅費が本工番の工事費用に計上されていないからといって、本件工事のための費用でないとすることはできない、更に、千代田組の売上計上の時期の信用性を論難し、同社がいつの時期に代金を回収しているのかも不明であって、千代田組の売上計上の時期を根拠にして本件検収時期を認定することに疑問がある、また、被告人会社と千代田組との代金支払の定めが二回の分割払いであり、第二回目の支払は客先検収後に代金の三分の一を支払うとされているところ、被告人会社が五〇年八月二九日付で、追加金を含めた代金総額一四〇〇万円の約三分の一にあたる四二〇万円を請求し、同金員が同年九月に支払われている、納品請求を機器の発送時点で行う被告人会社の請求ですら、残代金の請求は五〇年八月二九日付でなしているのであるから、五〇年三月末までに検収があったとして前示のとおり認定した原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があり、ひいては売上計上の時期の判断につき法令の解釈・適用を誤った非違があるので、破棄を免れない、というのである。

イ 当裁判所の判断

所論と答弁にかんがみ記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討するに、まず証人鳥越の証言を採用しなかった点を論難する点については、鳥越が本件空気力輸送装置の検収に立会った場合その旅費などは本工番にかかった費用である以上本工番の工事費用に計上されなければ経理上不合理であると考えられること、次に、千代田組の売上計上の時期の信用性を論難する点については、千代田組の経理は、大阪国税局に提出した同社作成の回答書(追加金三一〇万円の検収年月日が五〇年三月と記載されている部分を除く。)及び注文書等並びに証人池田英道(同社経理部勤務)の証言など本件にあらわれた証拠に照らして、とくに不自然不合理な点はなく十分信用できると判断できること、更に、前示代金支払の定めを無視していると論難する点については、千代田組が被告人会社と結んだ契約では、当初、試運転後三分の二、客先検収後残金を約束手形で支払う約定であったことや被告人会社が千代田組に対し前示追加金を含めた残代金四二〇万円を五〇年八月二九日付で請求したことは、所論のとおりであるが、しかし、前示証拠によれば、右契約はオイルショック後の経済事情の変動のため代金支払条件などを別途相談することになったので、当初の支払条件は解消されたものと考えられることや被告人会社が五〇年三月二八日ころ試運転し、千代田組は、同年三月日本イトン工業側が検収したとして同社に対し売上を計上している事実が認められることなどに照らすと、たとえ被告人会社が代金総額の約三分の一(正確には三割)にあたる残代金四二〇万円を五〇年八月二九日付で請求しているとしても、このころに客先(日本セメント)の検収があったと推認することはできず、その他所論がるる主張するところを考慮・検討しても、五〇年三月末には相手方の検収を受け終わったと認定した原判決の判断は正当である。所論は理由がない。

<3> 工番七三七五番(住友電気工業)について

ア 所論

所論は要するに、原判決は、住友電気工業、大三商会、被告人会社間の取引は、当初A、B二口の工事であったが、右三者間でB工事を中止するとともにA工事の値増しを含めた契約内容と代金の改定の話合いがなされ、四九年一二月四日妥結に至り、被告人会社は既に受け取った金員をもって契約代金とすることに合意したものと推認され、そして住友電気工業は、右改定された契約内容に従い、五〇年一月二五日据付試運転の検収をしたものと認められるので、同日が売上計上の時期である、と認定・判断しているけれども、被告人会社が四九年一二月四日ころB工事の中止について協議を受けておらず、証人臼井猛の証人尋問調書添付の禀議書の記載や大三商会が変更後の工事代金二一一五万円を五〇年四月三〇日までに受け取っていることは、住友電気工業と大三商会との内部的な処理手続に関するものであるから、被告人会社が四九年一二月四日ころB工事の中止について協議を受けたことの証拠にはならず、他に被告人会社が変更後の定めに従って行動したことを窺わせる証拠はないにもかかわらず(むしろ、被告人小泉の供述によれば、被告人会社は五〇年七月になってから工事中止の通知を受けたという。)、原判決が被告人会社において四九年一二月四日ころB工事の中止について協議を受けた旨認定し、前示のとおり売上計上の時期を認定・判断しているのは判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があり、ひいては売上計上時期の判断につき法令の解釈・適用を誤った非違があり、破棄を免れない、というのである。

イ 当裁判所の判断

所論と答弁にかんがみ記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討するに、原判決の認定は正当であり、これを首肯できる。すなわち、関係証拠によれば、<1>住友電気工業は、四九年三月二日大三商会に対し、PEペレット空送装置二式(A、Bライン)を代金二六〇〇万円、検収後翌々々月末払い、関東製作所工場に据付渡しの約定で発注したが、その後Bライン工事を中止することとし、四九年一二月四日被告人会社とも協議のうえ、A、B二式のうち、Bラインの工事の中止を決定し、Bライン分九二九万七〇〇〇円の発注を取り消すとともに、被告人会社がBラインのために購入していた機材を九四万三〇〇〇円で引き取る、Aラインについては、仕様のアップ分として三二六万三〇〇〇円及び被告人会社の材料、購入品の単価上昇分二四万一〇〇〇円を加算し、結局大三商会において二一一五万円でAラインの仕事を続行することとし、被告人会社の組立据付けに応じ、四九年七月二三日中間検収をして同年一〇月三一日大三商会に対し七八〇万円を支払う手続をし、四九年八月二五日にも中間検収をして同年一一月三〇日に七二〇万二〇〇〇円の、五〇年一月二五日最終検収をしたとして同年四月三〇日六一四万八〇〇〇円のそれぞれ支払手続をしたこと、<2>被告人会社は、四八年一一月二九日大三商会から右工事を二五〇〇万円で受注し、同工事のため設計図面等を作成し、その後契約金額の変更があり、四九年五月ころから同工場で製作に着手し、大三商会に対し、四九年八月一二日付で一四〇〇万円の、同年一一月二日付で六五〇万円の各納品請求をし、四九年八月三一日に一四〇〇万円の、同年一一月三〇日に六五〇万円の大三商会振出の約束手形を受け取っていることが認められ、右事実経緯によれば、「PEペレット空送装置のA、B二式のうち、Bラインの工事を中止し、Bライン分九二九万七〇〇〇円の発注を取り消すとともに、被告人会社がBラインのために購入していた機材を九四万三〇〇〇円で引き取る、Aラインについては、仕様のアップ分として三二六万三〇〇〇円及び被告人会社の材料、購入品の単価上昇分二四万一〇〇〇円を加算する」という変更された契約の内容は、被告人会社との協議がなければ、住友電気工業と大三商会との間だけでは到底決定できない事項であると考えられることや被告人小泉の供述及び証人柏原の証言が原判示のとおり信用できないことなどに照らせば、被告人会社が四九年一二月四日ころB工事の中止について協議を受けたものと推認し、五〇年一月二五日に相手方の検収を受け終わった旨認定した原判決は正当である。所論は理由がない。

<4> 工番七五五二番(千代田化工建設)について

ア 所論

所論は要するに、原判決は、本件工事が、納入渡しあるいは据付渡しのいずれにせよ、五一年五月一五日その試運転を終えて千代田化工建設の検収を受けたものと認定しているけれども、被告人会社の従業員・鳥越が本件機器等の無負荷運転に立ち会ったところ、サイレンサーが機能しなかったので朝日機工ヘブロアーを返送して補修させ、五一年夏になりようやく検収を受けたのであるから、原判示のように五一年五月一五日には千代田化工建設の検収を受けたものと認定できるはずがなく、仮に原判決の認定のとおりとしても、千代田化工建設が検収(五一年五月一五日)を正式に決めるのは同月末であるから、被告人会社にとってはそのときまで検収の確認ができるはずがなく、従って前示のとおり売上計上の時期を認定した原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があり、ひいては売上計上の時期の判断につき法令の解釈・適用を誤った非違があり、破棄を免れない、というのである。

イ 当裁判所の判断

所論と答弁にかんがみ記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討するに、原判決の認定は正当であり、これを首肯できる。すなわち、所論のうち前者の点については、証人鳥越が原審において所論に沿う証言をしているところ、右証言が信用できないことは原判決の指摘したとおりであるので、これを引用し、所論のうち後者の点については、関係証拠によれば、被告人会社が五一年五月期(事業年度五〇年五月二一日から五一年五月二〇日まで)の法人税の確定申告書を提出したのが、五一年七月二〇日であると認められるのであるから、仮に千代田化工建設が検収(五一年五月一五日)を正式に決めるのは五一年五月末であったとしても、被告人会社にとっては前示法人税の確定申告書を提出した日(五一年七月二〇日)までには、千代田化工建設が検収したことを知ったと認められるのであるから、所論はこの点でも失当である。所論はいずれも理由がない。

<5> 工番七四七七番(三菱モンサント化成)について

ア 所論

所論は要するに、原判決は、五〇年四月三〇日には納入渡しの相手方検収手続に従い検収を受けたものと認定しているけれども、原判決が被告人会社の従業員港の出張旅費精算書に四日市製鋼所(東曹)の記載しかないことを理由に、五〇年六月一六日に試運転立会に赴いた旨の同人の証言を信用できないとする点は、当該精算書は被告人会社の内部的な支払手続書類に過ぎないので、必ずしも出張先をすべて記載するわけではなく、かつ、本件工事は三菱モンサント化成の四日市工場へ納入したものであり、同社は四日市製鋼所と同じ四日市にあるのであるから、当該精算書は同人がそのころ三菱モンサント化成の四日市工場と四日市製鋼所とを同時に訪ねたことに関するものと解すべきであるのに、前示のとおり売上計上の時期を認定した原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があり、ひいては売上計上の時期の判断につき法令の解釈・適用を誤った非違があり、破棄を免れない、というのである。

イ 当裁判所の判断

所論と答弁にかんがみ記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討するに、関係証拠によれば、本件が納入渡しの契約であること、<1>奥慎吉作成の確認書に、三菱モンサント化成が五〇年四月三〇日検収した旨の記載があること、<2>被告人会社が五〇年五月一五日付で納品請求(連続自動サンプラー一式、四六万二〇〇〇円)していること、<3>三菱モンサント化成が同月三一日支払手続をしたことが認められ、これらによれば、五〇年四月三〇日に相手方の検収を受けたものとして、同日を売上計上の時期であると認定した原判決の判断は正当であり、これを首肯できる。所論は、被告人会社の従業員が試運転に立ち会ったと主張するが、本件は納込み渡し(納入渡し)であって、試運転立会いは売上計上の判断時期の基準にはならないので、理由がないことは明らかであり、その他所論がるる主張する点を考慮・検討しても、五〇年四月三〇日を売上計上の時期であると認定した原判決の判断は正当である。所論は理由がない。

<6> 工番七四九〇番(日本合成ゴム)について

ア 所論

所論は要するに、原判決は、五〇年三月一四日には荷卸渡しの相手方検収手続に従い、検収を受けたものと認められる、と認定・判断しているけれども、原判決がまず荷卸渡しの検収さえ受ければ被告人会社は売上に計上すべきである、と考えている点が売上計上の時期に関する解釈を誤っており、更に出張旅費精算書の記載によれば、被告人会社の従業員榊原が五〇年一〇月三〇日に日本合成ゴム四日市工場へ出張したことが明らかであって、かかる出張は検収から時間をおいてなされることはないのであるから、その直前に検収がなされたことが推認できるので、機器の売上は五一年五月期に計上すべきであるので、前示のとおり売上計上の時期を認定・判断した原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があり、ひいては売上計上の時期の判断につき法令の解釈・適用を誤った非違があり、破棄を免れない、というのである。

イ 当裁判所の判断

所論と答弁にかんがみ記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討するに、関係証拠によれば、本件が納入渡しの契約であること、<1>日本合成ゴムは、四九年九月一〇日被告人会社に対し、空送配管材料(分岐バルブほか)一式を代金三一〇万円、月末締めで翌月末起算四か月の約束手形払い、納期五〇年三月一三日、同社四日市工場へ荷卸渡しの約定で発注したこと、<2>同社は、同月一四日これを受け取り検収したこと、<3>同社は同年四月末支払手続をしたこと、<4>被告人会社は設計図等を作成し、DCA等の注文の品を五〇年三月一三日に発送した旨の納品請求書が五〇年三月一五日付で発行されていることが認められ、これらによれば、五〇年三月一四日に相手方の検収を受けたものとして、同日を売上計上の時期であると認めた原判決の判断は正当である(なお、納入渡しの場合の売上計上の時期については、前示のとおりであるので、ここでは繰り返さない。)。所論は、被告人会社の従業員が試運転に立ち会ったと主張するが、本件は納込み渡し(納入渡し)であって、試運転立会いは売上計上の時期の判断基準にはならないので、理由がないことは明らかである。その他所論がるる主張する点を考慮・検討しても、五〇年三月一四日を売上計上の時期であると認定した原判決の判断は正当であって所論のような非違はない。所論は理由がない。

<7> 工番七四九三番(三菱化成工業)について

ア 所論

所論は要するに、原判決は、指定場所に納入後、五〇年三月二五日には検収を受けたものと認定しているけれども、見積依頼書(弁五九号証)によれば、被告人会社は三菱化成工業が組立据付けを終わった後、試運転立会いを義務としてしなければならなかったので、機器が納入された五〇年三月二五日には被告人会社の義務が履行済みであったはずがないから、納入渡しの検収さえ受ければ被告人会社は売上に計上すべきであるとして前示のとおり売上計上の時期を認定した原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があり、ひいては売上計上の時期の判断につき法令の解釈・適用を誤った非違があり、破棄を免れない、というのである。

イ 当裁判所の判断

所論と答弁にかんがみ記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討するに、関係証拠によれば、本件が納入渡しの契約であること、<1>三菱化成工業は、四九年一二月二三日被告人会社に対し、L507ドライヤー排出ロータリーバルブ一基を代金八五万円、検収月末締切、翌月末起算四か月の約束手形払い、納期五〇年一月一五日、同社北九州市八幡区の黒崎工場船車乗りの約定で発注したこと、<2>同社は、同年三月二五日納入されたものを検収したこと、<3>同社は同年四月末支払手続をしたこと、<4>被告人会社はギヤードモーター仕様変更の指示を受け、これを変更したうえで製作し、五〇年三月一七日納品請求したことが認められ、これらによれば五〇年三月二五日に相手方の検収を受けたものと認め、同日を売上計上の時期であるとした原判決の認定は正当であり、これを首肯できる(なお、納入渡しの場合の売上計上の時期については、前示のとおりであるので、ここでは繰り返さない。)。所論は、弁五九号証に基づいて調整員の派遣、試運転立会いは義務的なものと解釈すべきであると主張するが、前示のような本件の契約内容、履行形態、支払状況などに照らせば、右のような調整員の派遣、試運転立会いは被告人会社にとって必ずしも義務的なものというものではなく、むしろいわばメーカーの製品保証の一態様として行うものという趣旨と解せられる。本件は納入渡しであって、調整員の派遣、試運転立会いは売上計上の時期の判断基準にはならない。そこで、原判決には所論のような非違はなく、五〇年三月二五日を売上計上の時期であると認定した原判決の判断は正当である。所論は理由がない。

<8> 工番七五〇五番(三菱化成工業)について

ア 所論

所論は要するに、原判決は、指定場所に納入後、五〇年四月九日には検収を受けたものと認められる、と認定しているけれども、空気力輸送機器については納入渡しの場合であっても、試運転による性能発揮を確認した後に検収されるべきであるのに、原判決は、納入渡しの場合には機器そのものの検収さえ受ければ被告人会社は売上に計上すべきであると考えている点で売上計上の時期についての判断に誤りがあり、更に被告人会社の従業員港が五〇年七月九日本件のために三菱化成工業四日市工場へ出張したことが明らかであるにもかかわらず、右出張を本件とは別のロータリーバルブの修理関係の出張であるかもしれないとして、前示のとおり売上計上の時期を認定した原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があり、ひいては売上計上の時期の判断につき法令の解釈・適用を誤った非違があり、破棄を免れない、というのである。

イ 当裁判所の判断

所論と答弁にかんがみ記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討するに、関係証拠によれば、本件が納入渡しの契約であること、<1>三菱化成工業は、五〇年一月九日被告人会社に対し、空気力輸送設備機器(ロータリーバルブ等)一式を代金七三〇万円、四か月の約束手形払い、納期同年三月一五日、同社四日市工場に工場船車乗りの約定で発注したこと、<2>同社は、同年四月四日と七日に納入された機器を同月九日に検収したこと、<3>同社は同年五月末支払手続をしたこと、<4>被告人会社は右の機器の仕様書等を作成し、これを製作して五〇年四月八日付で納品請求したことが認められ、これらによれば五〇年四月九日に相手方の検収を受けたものと認め、同日を売上計上の時期であるとした原判決・認定の判断は正当であり、これを首肯できる(なお、納入渡しの場合の売上計上の時期については、前示のとおりであるので、ここでは繰り返さない。)。所論は、被告人会社の従業員港が試運転に立ち会ったと主張するが、本件は納込み渡し(納入渡し)であって、試運転立会いは売上計上の時期の判断基準にはならないので、理由がないことは明らかである。その他所論がるる主張する点を考慮・検討しても、五〇年四月九日を売上計上の時期であると認定した原判決の判断は正当である。所論は理由がない。

<9> 工番七五三七番(三菱化成工業)について

ア 所論

所論は要するに、原判決は、同月五月一八日には検収を受けたと認定・判断しているけれども、空気力輸送機器については納入渡しの場合であっても、試運転による性能発揮を確認した後に検収されるべきであるのに、原判決は、納入渡しの場合には機器そのものの検収さえ受ければ被告人会社は売上に計上すべきであると考えている点で売上計上の時期についての判断に誤りがあり、機器の種類、被空送物質によっては、試運転を相手にまかせ、請負契約の目的たる機器の性能が発揮され、被空送物質が契約どおり輸送できれば、客先の検収が終わることになるので、被告人会社は電話をしたり客先会社に赴くことにより、試運転終了と検収を確認することになり、被告人会社としては検収を確認した日の属する事業年度に売上を計上すれば足り、本件の場合は、被告人会社の従業員榊原が五一年七月一六日三菱化成工業東京本社へ出張し、このときに被告人会社は三菱化成工業の検収を確認したのであるにもかかわらず、原判決はこれを試運転立会い調整といえないと認定・判断した点は事実を誤認し、仮に原判決が認定するとおり、三菱化成工業が同年五月一八日に検収をしたとしても、同社は月末にならなければ検収の処理をしないので、被告人会社が同社に月途中で検収の問い合わせをしても検収の有無を知ることができないのであるから、本件売上は五二年五月に計上すれば足り、前示のとおり売上計上の時期を認定・判断した原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があり、ひいては売上計上の時期の判断につき法令の解釈・適用を誤った非違があり、破棄を免れない、というのである。

イ 当裁判所の判断

所論と答弁にかんがみ記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討するに、関係証拠によれば、本件が納入渡しの契約であること、<1>三菱化成工業は、五一年一月二六日被告人会社に対し、ロータリーバルブ一台を代金三一万五〇〇〇円、検収月末締切り、翌月末起算四か月の約束手形払い、納期同年一月三一日、同社黒崎工場に車乗りの約定で発注したこと、<2>同社は、同年一月二九日に納品された機器を同年五月一八日に検収したこと、<3>同社は同年六月末支払手続をしたこと、<4>被告人会社は仕様書等を作成し、これを製作して同年三月二二日付で納品請求したことが認められ、これらによれば、五一年五月一八日に相手方の検収を受けたものとして、同日を売上計上の時期であると認めた原判決の判断は正当であり、これを首肯できる(なお、納入渡しの場合の売上計上の時期については、前示のとおりであるので、ここでは繰り返さない。)。所論は、被告人会社の従業員榊原が五一年七月一六日三菱化成工業東京本社へ出張し、このときに被告人会社は三菱化成工業の検収を確認したなどと主張するが、本件は納入渡しであって、試運転立会いは売上計上の時期の判断基準にはならないので、理由がないことは明らかである。所論のうち、仮に原判決が認定するとおり、三菱化成工業が同年五月一八日に検収をしたとしても、同社は月末にならなければ検収の処理をしないので、被告人会社が同社に月途中で検収の問い合わせをしても検収の有無を知ることができないと主張する点については、関係証拠によれば、被告人会社が五一年五月期(事業年度五〇年五月二一日から五一年五月二〇日まで)の法人税の確定申告書を提出したのは、五一年七月二〇日であると認められるのであるから、仮に三菱化成工業の検収が五一年五月末に正式決定されたとしても、被告人会社にとっては前示法人税の確定申告書を提出した日(五一年七月二〇日)までには、三菱化成工業が検収したことを知ったと認められるのであるから、所論はこの点でも失当である。その他所論がるる主張する点を考慮・検討しても、五一年五月一八日を売上計上の時期であると認定した原判決の判断は正当である。所論は理由がない。

<10> 工番七五六一番(三菱化成工業)について

ア 所論

所論は要するに、原判決は、五一年五月一五日納入渡し後の検収を受けたものと認定しているけれども、被告人会社の従業員榊原が五一年七月一六日三菱化成工業東京本社へ出張し、このときに被告人会社は三菱化成工業の検収を確認したのであるにもかかわらず、原判決はこれを水島工場に納入された本件機器の試運転立会い調整とは認められないとした点において事実を誤認したものであり、仮に原判決が認定するとおり、三菱化成工業が同年五月一五日に検収をしたとしても、月末にならなければ検収の処理をしないので、被告人会社が同社に月途中で検収の問い合わせをしても検収の有無を知ることができないのであるから、本件売上は五二年五月に計上すれば足りるのであるから、前示のとおり売上計上の時期を認定・判断した原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があり、ひいては売上計上の時期の判断につき法令の解釈・適用を誤った非違があり、破棄を免れない、というのである。

イ 当裁判所の判断

所論と答弁にかんがみ記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討するに、関係証拠によれば、本件が納入渡しの契約であること、<1>三菱化成工業は、五一年四月一二日被告人会社に対し、スライドゲートバルブ一式を代金一七万円、検収月末締切、翌月末起算四か月の約束手形払い、納期同年五月一五日、同社水島工場荷卸しの約定で発注したこと、<2>同社は、同年五月一五日納入を受け、同日検収をしたこと、<3>同社は同年六月末支払手続をしたこと、<4>被告人会社は仕様書等を作成し、五一年四月二三日付で納品請求したことが認められ、これらによれば、五一年五月一五日に相手方の検収を受けたものとして、同日を売上計上時期と認定した原判決の判断は正当である(なお、納入渡しの場合の売上計上の時期については、前示のとおりであるので、ここでは繰り返さない。)。所論は、被告人会社の従業員榊原が五一年七月一六日三菱化成工業東京本社へ出張し、このときに被告人会社は三菱化成工業の検収を確認したなどとるる主張するが、本件が納入渡しであって、試運転立会いは売上計上の時期の判断基準にはならないので、理由がないことは明らかである。所論のうち、仮に原判決が認定するとおり、三菱化成工業が同年五月一五日に検収をしたとしても、同社は月末にならなければ検収の処理をしないので、被告人会社が同社に月途中で検収の問い合わせをしても検収の有無を知ることができないと主張する点については、関係証拠によれば、被告人会社が五一年五月期(事業年度五〇年五月二一日から五一年五月二〇日まで)の法人税の確定申告書を提出したのは、五一年七月二〇日であると認められるから、仮に三菱化成工業の検収が五一年五月末に正式決定されたとしても、被告人会社としては前示法人税の確定申告書を提出した日(五一年七月二〇日)までには、三菱化成工業が検収したことを知ったと認めるに十分であるから、所論はこの点でも失当である。その他所論がるる主張する点を考慮・検討しても、五一年五月一五日を売上計上の時期であると認定した原判決の判断は正当である。所論は理由がない。

<11> 工番七五〇二番(味の素)について

ア 所論

所論は要するに、原判決は、五〇年二月二六日には味の素の検収を受けたものと認定しているけれども、空気力輸送機器については納入渡しの場合であっても、試運転による性能発揮を確認した後に検収されるべきであるのに、原判決は、納入渡しの場合には機器そのものの検収さえ受ければ売上に計上すべきであるとしている点で売上計上の時期についての判断に誤りがあり、被告人会社の従業員港が五〇年六月一六日味の素の四日市工場へ主張し、このときに被告人会社は味の素の検収を受けたのであるから、同日を売上計上の時期とすべきであるにもかかわらず、原判決は証人港の右証言を信用せず、五〇年二月二六日を売上計上の時期であると認定したので、原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があり、ひいては売上計上の時期の判断につき法令の解釈・適用を誤った非違があるので、破棄を免れない、というのである。

イ 当裁判所の判断

所論と答弁にかんがみ記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討するに、関係証拠によれば、本件が納入渡しの契約であること、<1>味の素は、四九年一二月二三日被告人会社に対し、アミノ酸結晶空気力輸送設備一基の製作を代金一七〇万円、検収月末締め、翌々月一五日振出九〇日の約束手形で支払うという約定で発注したこと、<2>同社は五〇年二月二六日同社四日市工場で検収をしたこと、<3>同社は同年四月一五日支払手続をしたこと、<4>被告人会社は、四九年八月七日代金一六八万円、東海工場車上渡しの見積書を提出し、同年一一月二五日には一七八万円の見積書を提出し、これを製作して、五〇年二月二一日付で納品請求したことが認められ、これらによれば、五〇年二月二六日に相手方の検収を受けたものとして、同日を売上計上の時期であると認定した原判決の判断は正当であり、これを首肯できる(なお、納入渡しの場合の売上計上の時期については、前示のとおりであるので、ここでは繰り返さない。)。所論は、被告人会社の従業員港が五〇年六月一六日味の素の四日市工場へ出張し、このときに被告人会社は味の素の検収を確認したと主張するが、本件が納入渡しであって、試運転立会いは売上計上時期の判断基準にはならないので、理由がないことは明らかである。その他所論がるる主張する点を考慮・検討しても、五〇年二月二六日を売上計上の時期であると認定した原判決の判断は正当である。所論は理由がない。

<12> 工番七五六四番(日本スチレンペーパー)について

ア 所論

所論は要するに、原判決は、日本スチレンペーパーは右購入した機器の据付工事を注文しておらず、機器が指定場所に納入された後、五一年四月二〇日これを検収したものと認定しているけれども、空気力輸送機器については納入渡しの場合であっても、試運転による性能発揮を確認した後に検収されるべきであるのに、原判決は、納入渡しの場合には機器そのものの検収さえ受ければ被告人会社は売上に計上すべきであると考えている点で売上計上時期についての認定に誤りがあり、更に、日本スチレンペーパーの従業員・多久島の証言と同人作成の回答書(原審検六九号証)を証拠として、前示のとおり五一年四月二〇日に検収した旨認定しているが、右各証拠は同社が本件機器を購入する際に内部的に作成した購入禀議書に基づいたものに過ぎず、同人の証言も必ずしも正確ではないのであるから、前示のような検収日の認定はできないので、原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があり、ひいては売上計上の時期の判断につき法令の解釈・適用を誤った非違があり、破棄を免れない、というのである。

イ 当裁判所の判断

所論と答弁にかんがみ記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討するに、関係証拠によれば、本件が納入渡しの契約であって、日本スチレンペーパーは据付工事を注文していないこと、<1>日本スチレンペーパーは、五一年三月被告人会社に対し、ペレット風送用機器一式(各種バルブ)を代金二九〇万円、五一年一〇月三一日期日の約束手形で支払、納期同年四月二〇日同社鹿沼工場で引渡しを受ける約定で発注したこと、<2>同社は同年四月二〇日右機器の検収をしたこと、<3>同社は同年五月三一日代金の支払手続をしたこと、<4>被告人会社は、同年三月五日付見積書を提出し、受注して仕様書等作成し、これらを製作して、同年四月二二日付で納品請求したことが認められ、これらによれば五一年四月二〇日に相手方の検収を受けたものと認め、同日を売上計上の時期であるとした原判決の認定・判断は正当であり、これを首肯できる(なお、納入渡しの場合の売上計上の時期については、前示のとおりであるので、ここでは繰り返さない。)。なお、日本スチレンペーパーが本件機器を購入する際に作成された購入禀議書は内部的な資料ではあるが、前示多久島の証言などに照らせば、それが正確に作成されていることを認めるに足り、その他所論がるる主張する点を考慮・検討しても、五一年四月二〇日を売上計上の時期であると認定した原判決の判断は正当である。所論は理由がない。

<13> 工番七五六七番(旭化成工業)について

ア 所論

所論は要するに、原判決は、倉敷市旭チバ工場に持ち込まれた後、五一年五月一二日に旭化成工業の委託を受けた旭エンジニアリングの検収を受けたものと認められる、と認定・判断しているけれども、被告人会社の従業員穐友が五二年一月二六日試運転立会いのために旭エンジニアリングへ出張している(原審押二3・出張旅費精算書及び証人柏原の証言による。)のであるから、同日を売上計上の時期とすべきであるにもかかわらず、原判決はこれを信用せず、仮に原判決が認定するとおり、旭エンジニアリングが五一年五月一二日に検収をしたとしても、相手方は月末にならなければ検収の処理をしないので、被告人会社が同社に月途中で検収の問い合わせをしても検収の有無を知ることができないのであるから、五一年五月一二日を売上計上の時期と認定した原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があり、ひいては売上計上の時期の判断につき法令の解釈・適用を誤った非違があり、破棄を免れない、というのである。

イ 当裁判所の判断

所論と答弁にかんがみ記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討するに、関係証拠によれば、本件が納入渡しの契約であること、<1>旭化成工業は、五一年三月一〇日被告人会社に対し、3MEX空送系ルーツブロアー一式を代金一一〇万円、同年五月一二日倉敷市旭チバ工場に持込車上渡しの約定で発注したこと、<2>旭エンジニアリングは同年五月一二日これを検収したこと、<3>被告人会社は、見積書を作成し、同年三月一〇日受注して同年四月八日付で納品請求したことが認められ、これらによれば五一年五月一二日に相手方の検収を受けたものと認め、同日を売上計上の時期であるとした原判決の認定・判断は正当である(納入渡しの場合の売上計上の時期については、前示のとおりであるので、ここでは繰り返さない。)。なお、前示穐友が五二年一月二六日試運転立会いのために旭エンジニアリングへ出張した点については、出張旅費精算書の目的欄に「機器打合せ」という記載があることや前示認定事実に照らして、試運転立会いのための出張であるとは認められず、また所論のうち、仮に原判決が認定するとおり、旭エンジニアリングが五一年五月一二日に検収をしたとしても、相手方は月末にならなければ検収の処理をしないので、被告人会社が同社に月途中で検収の問い合わせをしても検収の有無を知ることができないとの主張については、関係証拠によれば、被告人会社が五一年五月期(事業年度五〇年五月二一日から五一年五月二〇日まで)の法人税の確定申告書を提出したのは、五一年七月二〇日であると認められるのであるから、仮に旭エンジニアリングの検収が五一年五月末に正式決定されたとしても、被告人会社にとっては前示法人税の確定申告書を提出した日(五一年七月二〇日)までには、旭エンジニアリングが検収したことを知ったと認められるのであるから、所論はこの点でも失当である。その他所論がるる主張する点を考慮・検討しても、五一年五月一二日を売上計上の時期であると認定した原判決の判断は正当である。所論は理由がない。

三  売上除外に関する所論について

<1>  前示工番七四〇五番(中央工機)のうち九五八〇万円について

ア 所論

所論は要するに、原判決は、「被告人小泉は注文書の分割を依頼し、売上金中九五八〇万円を別途取り立て、被告人会社の当時の総務部長柏原昭治(以下、「柏原」ともいう。)はこれを仮名又は無記名の定期預金として管理していたにもかかわらず、五〇年五月期の公表帳簿に計上せず、五〇年五月期の売上金として申告所得に加算していないから、中央工機に対し積極的に右金員の支払事実を秘匿するよう依頼していなくても、柏原らにほ脱の故意があれば、右の行為は不正行為というべきである。なお、中央工機への反面調査あるいは銀行照会により容易に右金員の受領事実を捕捉できるとしても、右認定判断を左右するものではない。」と認定・判断しているけれども、被告人会社が本件の中央工機に対する売上の一部九五八〇万円を架空名義の定期預金として正式の帳簿に記載しなかったのは、当時被告人会社において組合闘争があって経理の公開を迫られたため、大口入金を一時避難したからであり、右金員はいずれ近いうちに正式帳簿に受け入れるつもりであったから、被告人小泉に売上除外の故意はなく、従って、売上除外を肯定した原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があり、ひいては売上計上の時期の判断につき法令の解釈・適用を誤った非違があり、破棄を免れない、というのである。

イ 当裁判所の判断

所論と答弁にかんがみ記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討するに、関係証拠によれば、本件売上代金九五八〇万円は、被告人会社が四九年一二月一〇日中央工機から受注した空気力輸送装置一式の契約の代金二億五四八〇万円の一部であり、前示工番七四〇五番(中央工機)について説示したとおりであって、結局その売上計上の時期は五三年五月期であると認定できる合理的疑いがある。そこで、所論の主張するその余の点を判断するまでもなく、本件売上代金に関しては、売上計上の時期について事実誤認の疑いがある以上、五〇年五月期に売上除外したとの点についても結局事実誤認の疑いがあることに帰着する。所論は理由がある。

<2>  無工番(第一実業)について

ア 所論

所論は要するに、原判決は、「第一実業が五〇年二月一〇日被告人会社に対し支払手続(原審検八七号証)をした金員(一八二四万二七〇〇円)は、リベートないし預り金とは解されず、柏原は右値増金分等を含めた前記金員につき、公表帳簿に計上していない。」と認定・判断しているけれども、右金員一八二四万二七〇〇円については、名目は値増金ということになっているが、実際は被告人会社が第一実業から預かった預り金(秘密工作金)であるので、工番を付さず、前示<1>のとおり労働争議の対策上一時避難したが、その後第一実業が値増金として処理しているので、同社が真相を認めることはないとあきらめて、被告人会社においても収益として処理したことなどに照らせば、売上除外を肯定した原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があり、ひいては売上計上の時期の判断につき法令の解釈・適用を誤った非違があり、破棄を免れない、というのである。

イ 当裁判所の判断

所論と答弁にかんがみ記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討するに、関係証拠によれば、原判決摘示のとおり、被告人会社がいわゆるオイルショックで工事原価が高騰したため価格の値増しを要請した結果、旭化成工業が値増金を支払うことになり、第一実業は、同年一〇月二〇日に検収を受けたとして、五〇年二月一〇日被告人会社に対し支払手続をしたが、被告人会社の当時の総務部長柏原昭治は、右値増金分等を含めた前記金員につき、公表帳簿に計上しなかったことが認められ、これによれば、前示金員は、単なるリベートないし預り金とは到底解されず、たとえ所論のように被告人会社が前示金員を労働争議の対策上一時避難したとしても、売上除外であることを否定することにはならず、その他所論がるる主張する点を考慮・検討しても、前示金員を売上除外であると認めた原判決は正当である。所論は理由がない。

<3>  無工番(日産石油化学)について

ア 所論

所論は要するに、原判決は、「関係証拠によれば、被告人会社は、日産石油化学から五〇年八月四日同社の<75>プラントに増強気力輸送装置機器の据付けを三〇〇〇万円で請け負って製作工事をなし、同年一一月二五日付で納品書及び請求書を提出し、同年一二月二〇日ころから約一週間実際に試運転を行い、日産石油化学が五一年一月末ころ支払手続をした後、同年四月一日領収手続をしている。以上によれば、五〇年一二月末には、試運転を終了し検収を受けたにもかかわらず、柏原は売上金を公表帳簿に計上せず、五一年五月期の売上金に加算していない。そして、柏原は右工事原価を他の工事の原価として付け替えている。右の行為は、不正行為というべきである。」と認定・判断しているけれども、本件の入金を架空名義の定期預金とし、公表帳簿に記載しなかったのは、前示<1>のとおり労働争議があり、経理の公開を迫られた結果、やむなく大口入金を一時避難のため架空名義としたことによるものであり、近いうちに公表帳簿に記載するつもりであったが、その処理が遅れてしまっただけであるから、売上除外を認定した原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があり、ひいては売上計上の時期の判断につき法令の解釈・適用を誤った非違があり、破棄を免れない、というのである。

イ 当裁判所の判断

所論と答弁にかんがみ記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討するに、前示証拠によれば、原判決摘示のとおり、被告人会社は、日産石油化学から同社の<75>プラントに増強気力輸送装置機器の据付けを請け負って製作し、五〇年一二月二〇日ころから約一週間実際に試運転を行ったこと、同年一二月末には、試運転を終了し検収を受けたにもかかわらず、柏原は本件売上金を公表帳簿に計上せず、一方右工事原価を他の工事の原価として付け替えて損金に計上していたことなどが認められるから、たとえ所論のように前示金員の処理が被告人会社において労働争議の対策上やむなくとられた措置であったとしても、これが売上除外であることを否定することはできず、その他所論がるる主張する点を考慮・検討しても、前示金員が売上除外に該当すると認定した原判決は正当である。所論は理由がない。

四  結び

以上のとおりであるので、原判決が認定した各取引の売上計上の時期は、工番七四〇五番(中央工機)の取引を除いていずれも正当であるが、同工番の取引については、被告人会社が中央工機から受注を受けたCPEプラント用空気力輸送装置一式の売上計上の時期は五〇年五月期であると認定した点に事実誤認があり、その誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、破棄を免れない。よって、量刑不当の論旨に対する判断を省略し、判示第一の罪と第二の罪とを併合罪として一個の刑で処断しているから、刑訴法三九七条一項、三八二条により原判決を全部破棄し、同法四〇〇条但書に従い当裁判所において更に裁判することとする。

(罪となるべき事実)

被告人会社は、大阪市西区立売堀一丁目一一番八号(昭和五三年一〇月二日住居表示実施による変更前は同区阿波座南通二丁目二五番地)に本店を置き、空気機械装置の設計製作施行等を目的とする会社であり、被告人小泉恭男は、被告人会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人小泉恭男は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、被告人会社の当時の総務部長柏原昭治と共謀のうえ、売上の一部を除外し、あるいは既に引渡し済みの完成工事を未完成工事に仮装するなどの方法によって売上を翌期以降に繰り延べるなどの行為により、所得の一部を秘匿したうえ、

第一  被告人会社の昭和四九年五月二一日から同五〇年五月二〇日までの事業年度における所得金額が一億三一三六万三七九八円(別表(一)修正損益計算書参照)であったのにかかわらず、同五〇年七月二一日、大阪市西区川口二丁目七番九号所在西税務署において、同税務署長に対し右事業年度における所得金額が八八八万七八九八円で、これに対する法人税額が一五五万〇五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により右事業年度における正規の法人税額五〇五三万一〇〇〇円(別表(三)税額計算書参照)と右申告額との差額四八九八万〇五〇〇円を免れ

第二  被告人会社の昭和五〇年五月二一日から同五一年五月二〇日までの事業年度における所得金額が七二三四万六四二二円(別表(二)修正損益計算書参照)であったのにかかわらず、同五一年七月二〇日、前記西税務署において、同税務署長に対し右事業年度における所得金額が一〇八四万三七三二円で、これに対する法人税額が一七七万六四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により右事業年度における正規の法人税額二六三七万〇四〇〇円(別表(三)税額計算書参照)と右申告額との差額二四五九万四〇〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人小泉恭男の当公判廷における供述

一  証人大津武の当公判廷における供述

一  登記官若井幸雄作成の平成元年一一月二二日付登記簿謄本のほか、原判示「(証拠の標目)」に記載のとおりであるので、これを引用する。

(法令の適用)

原判示「(法令の適用)」に記載の各法条(ただし、原審における訴訟費用については、刑訴法一八一条一項本文、一八二条を、当審における訴訟費用については、同法一八一条一項但書をそれぞれ適用する。)を適用する。

(量刑の事情)

本件は、被告人小泉が経営する被告人会社・日本空気力輸送装置株式会社の売上を繰り延べたり除外する方法により二事業年度にわたり、合計金七三五七万四五〇〇円の法人税を免れたという法人税法違反の事案であるところ、本件各犯行に至る経緯、本件各犯行の罪質、動機、手段・方法、回数、結果、ほ脱税額、ほ脱税率、被告人の地位、とくに、本件事案におけるほ脱の手口は、工事原価の付け替えを行っており、発覚することが困難で巧妙な犯行であること、本件は、ほ脱税額が前示のとおり合計金七三五七万円余りという高額にのぼり、ほ脱税率も平均して約九五・六パーセントという高率にのぼる犯行であって、法人税の課税価格を大幅に圧縮していることにかんがみると、その犯情及び刑責は軽視できないというべきである。してみると、被告人会社は工事原価の付替により期末仕掛工事高に簿外又は架空のものが発生したものであり、専ら利益を圧縮する目的で架空の工事経費を計上したわけではないこと、本件のうち売上除外は二件(第一実業分一八二四万二七〇〇円と日産石油化学分三〇〇〇万円)であり、大部分は売上繰延べであって売上計上の時期を遅らせたものであること、被告人会社は本件発覚後に修正申告に応じていること、被告人会社は本件で起訴された後大口の注文先からの発注が止まって売上高が減少するなど相応の制裁をうけていること、その他被告人小泉の反省の状況等所論の指摘する諸情状その他を十分考慮・斟酌しても、被告人小泉及び被告人会社に対して、主文程度の刑はやむを得ない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 右川亮平 裁判官角谷三千夫、同原啓はいずれも転補のため署名押印することができない。)

別表(一)

<省略>

別表(二)

<省略>

別表(三)

税額計算書

<省略>

別紙(1)

<省略>

別紙(2)

<省略>

別紙(3) 修正期首期末仕掛工事高表

<省略>

別紙(4) 簿外仕掛工事高表

<省略>

別紙(6)

各期末架空仕掛工事高表

<省略>

別紙(5)

請求書による簿外仕掛工事高内訳

<省略>

別紙(7)

未納事業税額計算書

<省略>

控訴趣意書

被告人 日本空気力輸送装置株式会社

同 小泉恭男

右の者に対する法人税法違反被告事件についての控訴の趣意は左記のとおりである。

昭和六一年一〇月二七日

右弁護人 丸尾芳郎

同 岡島嘉彦

同 池尾隆良

同 藤原光一

同 正木隆造

大阪高等裁判所第四刑事部 御中

第一点 原判決には、明らかに判決に影響する事実の誤認があり、ひいては売上計上時期の判断につき法令適用の誤りがあるので、その破棄を求める。

第一、空気力輸送装置の取引に関する売上の基準について

一、空気力輸送装置、機器の取引は、典型的な請負契約である。

それは、空気力を利用してある粉粒固体の主として化学物質を一工程から他工程にパイプを通して輸送する装置であり、被告人会社は、他社の注文により右空送設備一式を製造し、客先工場に取付設置し又は客先工場に取付設置できるよう右機器を製作するものである。

被告人会社が客先から受注するとき、客の要望するものは、ある特定の化学物質の一定数量(時間当りの輸送量)を、一定の場所から場所に(一定の距離)空送でき、かつ稼動時間(連続運転時間)はどの位のものかということのみを特定され、受注するというに過ぎない。つまり、客先は空気力による輸送能力を求めるもので、輸送能力の性能を求めて注文するのである。

輸送される化学物質は数百種類に及ぶものであるし、その化学性も帯電性・化学反応の有無・毒性の有無等があり、また化学の進歩に従い、従来存在しなかつた新種の化学物質の空送設備製作を要望されることもある。また客先の工場配置もすべて同一のものではなく、当該空送設備を設置する場所・工場も又種々である。当該空送設備により、どの程度の輸送能力・稼動条件を求めるかにより、また空送設備機器の内容も異つてくる。

従つて、被告人会社が経験と理論値から算出した数値に基づき空送設備を設計・製作しても、はたして客先の要望する条件で能力を発揮できるかということは、当該機器・装置を据付し、実際に無負荷運転し、ついで負荷運転し、ある期間を置いた試運転をしなければ性能が発揮されるかどうか判断し難いものである(港栄太郎一九回、二〇回の証言、特に一九回二〇丁以下。佐藤宏二三回二七~二八丁、三四回一~七丁。小泉三三回、特に七丁)。

そして試運転すれば、殆んどの場合手直し、補修するのが実際である(港一九回二〇丁。小泉三三回三丁)。

従つて、右手直補修し、さらにある程度の連続運転により客先としては、当該空送設備の性能を認め、初めてこれを検収したものとするのが通例である。

右のとおり、本件空気力輸送装置は、その据付工事を含むか含まないかに関係なく、いずれも極めて典型的な請負工事と解する外はない。

二、商法第三二条第二項には、「商業帳簿作成に関する規定の解釈については、公正なる会計慣行を斟酌すべし」と規定され、右公正なる会計慣行を要約したものとして、「企業会計原則」が示されている。

その企業会計原則「第二 損益計算書原則」三のBには、(損益計算書に計上すべき)「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によつて実現したものに限る。」としたうえで、「ただし長期の未完成工事等については、合理的に収益を見積り、これを当期の損益計算書に計上することができる」として特別の処理を認める。そして、右三のBただし書に関する注解(注7)として「長期の請負工事に関する収益の計上については、工事進行基準又は工事完成基準のいずれかを選択適用することができる。」とし、(1)工事進行基準は「決算期末に工事進行程度を見積り、適正な工事収益率によつて収益の一部を当期の損益計算に計上する」ものであり、他方(2)工事完成基準は、工事が完成しその引渡が完了した日(引渡を要しないときは、すべての役務が終了した日)に」工事収益を計上するものであるとされる。

三、ところで被告人会社は、右請負工事たる空気輸送装置の機器の売上基準として、右二つの基準のうち工事完成基準を採用し、これを西税務署長宛昭和四六年一月に提出しており、毎年この方法により売上を計上してきているものである(弁八号証、小泉第三二回公判二丁裏~三丁表)。

工事完成基準とは、機器を納入したり、これを据付けたりした段階そのままで工事の売上計上とするものではなく、請負契約により一定の条件の能力を有する空送設備につき性能を発揮できる機器を完成し引渡してすべての役務を完了したときと解するものであり、空気力輸送装置では試運転を経て空送能力が確認されるのであり、この引渡は客先の検収により完了することとなる。

しかし、客先は種々の事情により検収の事実を客観的に明確にする検収書を発行しないのが通例であるため、被告人会社としては、客先の明確な検収のないときは納入機器の客先の試運転開始約一ヶ月後として(弁八号証)、会計処理における確実性を尊重すると共に、客先に対する検収後一年の保証期間の定めにも配慮しているところである。

四、そして、右売上基準をこのように定め工事完成基準をとる以上、企業会計原則五に規定されている通り「企業会計は、損益処理の原則及び手続を毎年継続して適用し、みだりにこれを変更してはならない」のであり、これは被告人会社自体は勿論、税務署の課税処分あるいは所得税逋脱事件における売上計上時期についての判断においても尊重されねばならない。

第二、原判決の売上計上時期についての一般的基準について

一、原判決は、工番毎の売上計上時期を検討するにあたり、まず一般的な基準を検討し、それに基づき工番毎の検討をしている(争点に対する判断の「売上計上の時期」)。

しかし、そこにおける原判決の判断は、証拠に基づかない独断である。それは、空気力輸送装置というものの特殊性及びそれについての証拠を無視しているところに根本的な原因がある。

二、1 空気力輸送「装置」が注文どおりの性能を発揮するかどうかは、それを設置する工場において装置を組み立てたうえ試運転してみないと分らないので、被告人会社は装置を納入する場合には必らず試運転をして調整する。

それは、次の理由による。すなわち、空気力輸送装置の歴史は浅く、理論が未だ完成されていないので経験値により設計、製作しなければならないうえに、輸送目的物が千差万別でしかもその進歩が日進月歩であることがその製作を一層困難にしている。そこで、いかなる機能を有するかは実際に目的物を入れてみないと分らない。ところが、それが、被告人会社の工場では不可能である。なぜなら、まず、装置は大規模なもので、それを組み立てる場所がなく、また、輸送目的物が企業秘密保持の関係もあり、高価なものであるため手に入らないし、試運転といつても連続長時間の運転が必要であるが、それは無理だからである。

2 そして、据付をユーザーが行なう場合にも、同様である。被告人会社は性能を発揮することまで請負つているのであるから、試運転により調整することが必要である。この点につき、被告人会社とかつて継続的に取引した第一実業の担当者佐藤宏の証言(第二三回公判)によれば、「ユーザーが据付を行ない出した当初は、契約書に試運転を含む旨書いていたが、次第に当然のこととして書かなくなつた。」(一七丁)ということである。

(以上の装置についての記載は、被告人の第三三回公判供述二六丁裏~二九丁表、第三四回公判供述一丁~七丁表)。

3 そして、試運転が必要であることは、ブロアー、ロータリーバルブなどの装置を構成する個々の「機器」の製作でも同じことである。なぜなら、機器もそれが独立したものではなく、装置全体を見て調整する必要があるからである(以上の機器についての記載は、被告人の第三四回公判供述七丁表)。

4 このように空気力輸送装置については装置の取引でも、機器の取引でも、試運転が必要であることは、被告人会社とかつて継続的に取引した第一実業の担当者佐藤も認めるところである(第二三回公判二七丁表~二八丁表、三一丁表)。

三、 据付渡しと納入渡しの区別

以下、右のことを前提として、原判決の判示に従つて、その不当性を検討する。

1 まず、原判決は、装置及び機器について、<1>相手方工場で組立据付をするいわゆる「据付渡し」と、<2>相手方の指定する場所に単に納入し、組立据付を伴わないいわゆる「納入渡し」を、区別して考えるべきだとする。

そして、その理由の第一点は、被告人会社がなすべき作業が、前者では、組立据付、試運転等をして、当初予定された性能を発揮するよう調整することまで及ぶのに対して、後者では、「原則的には」機器等を指定場所まで持ち込むことまでである。

理由の第二点は、相手方のなす検収方法についても、前者では、予定された性能を発揮することを確認して検収するのに対し、後者では、指定場所に納入された機器等が仕様書に従い製作されているかだけを確認して検収するのが「通例である」からとする。

2 しかし、原判決はいかなる証拠をもつて、納入渡しの場合被告人会社の作業が「原則的には」機器等を指定場所まで持ち込むことまでであるとか、相手方の検収が、仕様書に従い製作されているかだけを確認するのが「通例である」とかを認定したのであろうか。

原判決は、ただ単に言葉のうえで観念的な想像を働かせての判断に過ぎない。

特に、原判決は、空気力輸送装置につき、前述の空気力輸送装置の特殊性より、当初は被告人会社において組立据付を行なつていたが、それが相手方の経済的な理由等により組立据付は相手方において行なうようになつた経過を無視している。

3 そもそも、原判決は、据付渡しと納入渡しとは全く連続性のないものとし、据付渡しの要件を満していないものは純粋の納入渡しの約定であり、その場合に、機器等の指定場所搬入後も被告人会社の作業が残るものの処理について、別途の契約により被告人会社が相手方のなす組立据付や試運転を技術指導する旨の契約を結ぶことは可能であると説明する(一〇丁表末尾)。

しかし、なにゆえに技術指導が別途の契約でなければならないのであろうか、理解できない。据付渡しの約定の契約から、単なる組立作業の部分だけを相手方が行なうこととし、その部分が被告人会社の債務から除かれた契約というものも考えるべきである。そして、被告人会社のなす「納入渡し」の契約はかように理解することが前記の相手方が組立据付を行なうようになつた経過からすれば妥当であつて、据付渡しの約定によらずに被告人会社が現地で作業をする場合は、別途の契約でなければならないという原判決の論理は独断である。

4 被告人会社の製作している空気力輸送装置は、例外なく試運転をして調整して始めて性能を達成しているか判断できるのであつて、機器の搬入後も作業が残る。しかし、どの程度の調整を要するかについては、大規模な装置・機器から小さな機器まであるので、一定はしていない。原判決は、被告人会社が小さな機器につき、少しの作業しかしていないのを見て、大規模な装置・機器まで同類であると判断したのかもしれないが、これは間違いである。

四、 納入渡しについての判示について

1 原判決は、納入渡しの意味を、仕様書に従つて作成した機器等を相手方の指定場所で引き渡す約定のみの趣旨であるとして、売上計上時期を相手方が機器等の引き渡しを受けて検収したときとする。なぜなら、被告人会社は右機器の据付及び試運転を請負つていないからであるとする。

しかし、前記の空気力輸送装置の特殊性より、被告人会社の製作する空気力輸送装置においては、装置の取引、機器の取引のいずれでもそういう契約はない。すなわち、右判示は、空気力輸送装置の機器の製作といえども前記のとおり工事請負契約であることの本質及び被告人会社が機器の据付をしなくなつた経緯を見失つた観念的議論という外はない。元々は空気力輸送装置は、技術の特殊性から組立及び工場での据付工事を含む請負工事として行われてきたものであるが、相手方にかなりの機械工学的知識と技術を有するようになつてからは、オイルシヨツクによる経費節約を契機として、客先において右全体工事のうち被告人会社の仕様設計図に基づく機器の据付等の工事部分のみを相手方客先において行うこととし、その分被告人会社の請負代金を減額・節約することを考えるようになり、いわゆる機器の納入渡しという形の契約も行れるようになつたのである(小泉三三回八丁。佐藤二三回一七丁)。

そこで、機器の納入渡しといえども請負契約の本質には何ら変化はなく、納入された機器を相手方工場の工程に接続して輸送部分と、して組込み、予定された輸送能力が発揮されるかどうか試運転し、それが認められるとして客先によつて検収されて、初めて請負契約としての役務の提供がすべて終つたものと言い得るのである。

その場合において被告人会社としては、請負契約にいう仕事を完成したことになり、これに対する報酬としての売上代金を計上でき得ることとなる。

2 原判決は「相手方は(機器の引渡を受けて)自ら適切な時期に組立据付をでき、ときには、その都合で組立据付を中止することさえもあり得るところ、相手方の試運転時に売上を計上すれば、その売上時期は不安定となる上・・・相手方の試運転に売上を計上すれば、その売上時期は不安定となる・・・」と判示する。しかし、この議論もまた本末転倒である。

空送機器は、相手方が一度これを採用し設備投資しようとするときは、高価な設備であり、かつ工場の工程上重要な部分に属するため、一日でも早い操業を要望するもので、被告人会社から機器を買い置きストックするが如き装置ではないし、組立据付を中止するなどは、殆どあり得るべきことでない。ただ事例として、過去に生じた未曾有の経済危機といわれたオイルショック時に空送設備を中止した事例が一、二件存在するに過ぎない。

また、相手方会社の組立据付の都合により売上時期が不安定になるとの理由も、請負工事の売上基準につき、前述のとおり工事完成基準をとる以上ある程度やむをえないことである。仮に請負工事の会計処理基準として前記の工事進行基準を採用すれば、機器の納入段階で売上全体の例えば九〇%を計上するというような方法により一定額の売上を計上することができ、原判決のその点の不安は解消する。しかし、被告人会社が、右二つの売上基準のうち工事完成基準をとる以上、あくまで試運転、検収により空気力輸送の効能が発揮され請負工事が完了した時に売上を一括計上すべきである。

原判決が「なお被告人会社が、(納入渡しのとき)組み立て据え付けられた装置や機器の性能を保証していても、右売上計上時期に移動を生じない」と判示するのは、納入渡しの約定による機器・装置の取引につき、単に機械そのものの売買と同一視するもので、これは右取引を請負工事契約と考えないために生じた理論的矛盾いう外はない。

3 次に、原判決は、納入渡しの場合につき、その納入契約に際し、「納入後に相手方のなす機材等の組立据付や試運転につき、継続的に指導監督することをも請け負う旨を約定し」ている場合(一三丁表)には、同所に掲げる、現実に社員を派遣したこと、対価を一括して定めたこと、売上計上基準を継続していることの三つの条件を満たせば試運転終了時に売上を計上する方法にも合理性がないとはいえないとする。他方、右機材の納入の際、右組立指導等をなすことを約定していないときは、売上を計上すべき時期は相手方が行なう機材等の検収時であると解されるとする。

しかし、組立据付及び試運転の両方につき、しかも、継続的な指導監督することまで請け負わなければ、試運転終了時に売上を計上できないとする根拠については、何ら説明が加えられていない。(なお、原判決が、右両方につき継続的な指導を要求していることは、三菱化成工業の被告人会社宛見積依頼書(弁五九)について、組立据付の指導が欠けていることを理由として、原判決の要求する技術指導に当らないとする判示より明らかである(一五丁表)。)

しかも、組立、据付等についての継続的な指導監督の取決めの有無により売上計上時期を左右させるということは理論的ではない。何故ならば、相手方が試運転し、検収することにより工事請負契約としての債務が履行されたと考えられるからである。例えば建築工事請負契約の際、建物本体価格とそれ以外の附帯工事を区分して請負金額を定めたときに、契約金額が別個に定められているという理由で、二つの契約があつたものとして、売上計上時期につき工事完成基準を採用する場合にも、二つに分けて売上を計上すべきであるとする議論が誤りであることが明白であると同様に、原審の右判示も誤りという外はない。

4 仮に、原判決の右基準を採用したとしても、裁判所が、「右機材等の納入契約の際、右組立指導等をなすことを約定していないときは、相手方に対し、組立据付方法や試運転方法を教示したり、相手方の組立据付や試運転に便宜立ち会い、組立据付等の不良箇所の発見に努め、修理箇所の補修工事をするなどしたとしても、右は機材等の製造納入契約に伴なう単なる附帯サービスないしは性能保証の一態様としてなされるものである」とすることも不当である。

裁判所が右の「約定していないとき」というのを明文の定めがないときの意味に解しているのであれば、これまた理由のないことである。契約の内容は文言のみで判断すべきものではない。裁判所は、なぜ被告人会社が相手方に対して組立据付・試運転に立ち会う等の判決の掲げる行為をするかについての検討を怠つている。それらは、無料サービスというほど軽微な作業ではないし、それらをしなければ性能を保証できないのが通常であるのだから、それは契約の履行のために当初から予定された行為で、納入契約の際の約定に基づくものである。予定外のアクシデントがあつたために必要になつたサービスないし性能保証に基づくものということはできない。裁判所の判示には決めつけがある。

5(一) 以上の基準を掲げた後、原判決はさらに、被告人会社の納入渡しの場合、継続的技術指導契約条項の存否あるいは継続的技術指導と同視出来る約定の存否について、検討している。

(二) 仮に、原判決の如き見解をとるとしても問題なのは、右約定の存否をいかに認定しているのかである。あるいは、明文の契約書がないことを考えているのかもしれないが、理由のないことである。契約の内容は契約書の文言によつてのみ決まるものではなく、契約書に記載なくとも一般的に行なつていること、あるいは当然の前提にされていることは契約の内容になる。

(三) しかも、原判決は、契約文言の解釈が、独断的である。

すなわち、原判決は、三菱化成工業の被告人会社宛見積依頼書(弁五九)について、「本来の見積り範囲外のものであることは右書面の記載上明らかである」とか、「性能保証している被告人会社に要請したい事項を具体的に記載したものと解される」とは判示するが、それは結局、契約の内容を原判決のいう納入渡しオンリーと決めたからそういう判断になるのであつて、契約文言から右のように解することができるとする理由がない。日常よく問題となるということは、納入だけでは債務が終らないことが多いということであり、そのための手当を契約の内容として要求していたと考えるのが普通である。

(四) 継続的技術指導と同視出来る約定の存否についての、被告人小泉の供述に対する反論についても、趣旨の不明なあるいは独断に基づく理由を判示する。

<1> 試運転調整費用が請負金額の相当部分を占めているものでないことを理由としているが、何を根拠にした判示なのか明らかでない。もし工番九四〇五番中央工機分についての技術員派遣の費用を指しているのであれば、間違いである。それは実費の弁償及び派遣員に対する日当のみの金額で、会社としての経費及び報酬は全く含まれていないのである。その金額が少ないからといつて、試運転調整費用が請負金額の相当部分を占めないということはできない。

また、試運転調整費用が請負金額の相当部分を占めていることは、裁判所が判決一三丁表において掲げる要件にはなく、要件の判示とその適用が矛盾している。

<2> また、注文者側の判断で据付そのものの中止もありうることを理由とするが、何を思つてかかることを理由とするのか不明である。売買契約であつても、買主より解除の申出があり売主が引渡しをやめにするということはあるが、それだからといつて、引渡しが売買上の義務でないということにはならない。請負では注文主はいつでも仕事の中止を命ずることができるので解除の機会は多くなるかもしれないが、それだからといつて、解除により履行しなくて済むようになる義務は契約上の義務ではないということにはならない。

<3> また、証人鳥越、同榊原の証言及び証人港の証言の引用の趣旨が不明である(一六丁裏五行目の「しかし」は「しかも」のタイプミスであろうか)。証人鳥越、同榊原が試運転指導しないこともあると証言するのは、単品といつてよい機器についてのことであり、それでもつて機器の請負全般を律するのは間違いである。また、証人港の、相手方据付でトラブルが発生した際、設計上の欠陥か相手方組立据付の誤りかを話し会う旨の証言を引用するが、被告人会社は性能達成まで請負つていても相手方のミスについてまで責任を負ういわれはないので、だれのミスかを話し会うことは別に異とするに足りない。

(五) また、原判決は、証人佐藤宏の証言につき、第一実業との取引において被告人会社が試運転に立ち合うことを契約内容に含ませていたことを、例外的なものと決めつけているが、不当である。むしろ、同人の証言を基準にして被告人会社の契約内容を判断すべきである。

<1> 第一実業は被告人会社の大口取引先で、同社との契約内容は他の取引先との契約内容のモデルというべきものであつて、特段の事情がない限り同社との契約内容を基準に他社の契約内容を判断すべきである。

<2> また、同人の売上計上時期についての証言部分は、法的判断を述べたに過ぎないとするが、なるほど売上計上時期をいつにすべきかという判断は裁判所がするものであつても、当事者が契約においてどこまで相手方に要求したかという法律的な問題は当事者の法律的証言によらずに何によつて判断すべきというのであろうか。これを法的判断として無視することは、裁判所の独断を押し通すための強弁である。

<3> さらに、第一実業の経理処理が被告人会社の処理と違つてはいるが、第一実業の処理は商社たる第一実業が経理処理の簡便のため被告人会社を信頼してのことであり、実体は違う旨の同人の証言は合理性があり、同人の証言を排斥する理由にはならない。

6 最後に、納入渡しの約定についての趣旨、相手方の検収の趣旨についても、原判決は、納入渡しの約定が危険負担や運賃区分を定めたものにすぎず、相手方検収が代金支払いの手段に過ぎないという被告人の主張を、独断をもつて排除している。

(一) まず、被告人会社の負担する契約上の義務の内容については、被告人会社は、裁判所のいう納入渡しオンリーの契約をしたことはないし、また空気力輸送装置の特性や工事請負契約の本質からして、そのような契約をすることはありえない。それを被告人会社がかかる契約をなしたと決めつけておいて被告人会社の義務をその範囲に制限し、組立据付の継続的指導の義務を履行していないとして、被告人の主張を退けているのは、不当である。

それは、具体的には、工番七四〇五番中央工機分について、その技術指導を別個の契約に基づくと決めたうえでの立論であろうが、別個の契約でないことは、後述のとおりである。

また、裁判所が被告人会社が現実に試運転指導、試運転調整をしている事実を無視しているのも不当である。

(二) 次に、原判決は、相手方の検収について、納入された機材等につき性能品質等を検査し、合格したものを受領することであり、かかる処理が通常であつて、本件の各取引先においてもかかる意味合いにおいて検収していると判示するが、いかなる契約において通常であるというのか、不明である。空気力輸送装置の契約において通常だというのであれば、それは証拠に基づかない認定である。他の機械設備の契約において通常であるというのであれば、それが空気力輸送装置においても妥当するかの検討が欠けている。

(三) また、原判決は、相手方において、組み立て据え付けて試運転をする経過の中で不良箇所を発見した際、被告人会社にその補修工事等を求めることがあり、これを性能保証契約あるいは瑕疵担保責任等に基づくものとする。

しかし、それは納入渡しオンリーの契約を想定しているからであつて、被告人会社の装置及び機器の請負では、かかる事態はない。被告人会社は契約により能力達成まで請負つているのであり、それは相手方が据付る場合でも同様である。相手方据付後の被告人会社の作業は請負契約上の義務の履行として行なつているのである。

五、右のとおりであり、原判決は、機器等の納入渡しの場合、物品納入及びこれに対する納入時の検収と同時にこれを売上計上すべきであるとして判示しているところであり、<1>被告人会社の工番七五三七番、相手方三菱化成工業、契約金額三一万五〇〇〇円、<2>同七五五二番、相手方千代田化工、契約金額二〇五万五〇〇〇円、<3>同七五六一番、相手方三菱化成工業、契約金額一七万円、<4>同七五六七番、相手方旭化成工業、契約金額一一〇万円、<5>同七四〇五番、相手方第一実業、契約金額二億五四八〇万円の、それぞれの工事についてはいずれも、機器納入即売上計上としており、右売上計上時期については明らかに誤りであり、その時点をもつて売上所得とすべきでない。右の如き計上は判決に明らかに影響を及ぼす事実の誤認があり、ひいては法令適用の誤りがあるものといわなければならない。

六、そこで、第七項に以上の検討に基づき、各工番ごとに売上繰延の有無について検討するが、その前に注意すべき点を列挙しておくこととする。

1 試運転の内容

空気力輸送装置は前述のとおり複雑な機械で、かつ、それのみで意味を有するものではなく、他の生産設備等に組込まれてその一部をなすものである。したがつて、その試運転というのも、試運転を開始してすぐに機能を発揮するかを判断できるものではない。装置・機器の搬入後試運転完了までの期間の長さについては、装置・機器の規模、輸送対象物、他の装置の出来具合あるいは客先の意向に応じて一概に言えないが、一か月というのは珍しくなく(証人柏原五回公判二四丁は、試運転を開始して一か月くらい順調に行けば検収があがると証言する。)、数か月以上かかる場合も決して稀ではない。

この点について、原判決の判示には、テレビと同じようにスイッチを入れたらすぐに機能を発揮するかどうかを判断できるという考えに基づいているようなところがあるが、それは理由のないことである。

2 納入渡しの場合の検収について

被告人会社は、相手方が機器を据付けるという約定で、装置・機器の納入契約をした場合にも、原則として相手方の行なう試運転に立会うこととし、現実にも多くの場合試運転に立会つてきた(証人港二〇回公判一二丁)。しかし、その場合にも、立会期間中にOKをもらうこともあるし、客先の希望により数日ないし一か月間その機器・装置を作動させ様子を見ることとし、その後に相手方からOKの通知を受けたり被告人会社から確認を取ることもある。

例外的には、機器が簡単な場合、あるいは、逆に大規模なプラントで他の工事の都合で試運転の時期が予測できない場合により、相手方が被告人会社の立会を求めないこともある。試運転の結果いかなるトラブルか明らかになつた段階で被告人会社へ連絡すれば技術者を派遣することになつているからである。このような場合にトラブルが発生しなければ、相手方が検収したことの確認方法は、被告人会社の社員が据付工場や相手方の本社に行つて試運転の結果を聞いて検収を受けたことを確認を取つたり、電話で確認を取つたりしていた。

そして、このように検収を確認した時は、客先は検収書を発行しないため、設計工務の担当者は営業に工事ファイルを回し、これで被告人会社の義務は完了する(証人港二〇回公判一一丁以下)、その月の売上に計上していた。

3 保証期間について

被告人会社は、装置機器の保証期間として一年間とするのが通常である。その起算点を納入から一年間と解したのでは、据付して試運転を完了するまでに一年を経過してしまうことが多く、保証期間の意味がなくなつてしまい、客先にも不利益である。

被告人会社は、試運転して機能を達成を確認してから一年間の保証をしたと考えており、それとの整合性から、機能達成を確認してから売上に計上していたものである。

4 被告人会社の納品請求について

被告人会社は、設立当初からの慣例で、納品書と請求書とを複写で作成できる用紙を使い、注文主に対して機器・機材を発送したら、被告人会社の経理から一週間以内に納品書と請求書とを注文主に送付することにしている。それは、装置・機器としての検収を終えているかどうかに関係なく、機械的にそうしているのである。その目的は、請求金額を明示すること、さらにできるだけ早く代金をもらえればそれに越したことはないという理由からである。しかし、もちろん代金請求の事実と会計上これを売上に計上すべきかどうかとは別個の問題である。売上を計上すべき時期は、これまで述べたとおり工事請負契約の場合は、目的たる仕事が完成し被告人会社の債務がすべて完了したときであり、単品の売買のときのみ納品検収のときである。

被告人会社の納品請求が検収の有無にかかわらずなされていることは、原判決も左記の事実認定において一部認めているところである。

<1> 工番七三七一番 CMK五八三分

納品請求 四九年 九月 九日

検収 五一年一〇月二一日

<2> 工番七三九九番

納品請求 五〇年 一月二九日

検収 五〇年 一月 末日

再請求 五一年 六月三〇日

支払い 五一年一〇月一二日

原判決は、被告人会社は昭和五〇年一月二九日付で納品請求していると認定しているにもかかわらず、相手方の支払いが遅れたのは被告会社からの請求がなかつたからだと認定している。これは検収がなされたから納品請求してるという認定とは相容れない。

<3> 工番七五〇五番

納品請求 五〇年 四月 八日

検収 五〇年 四月 九日

たとえ一日でも検収日の方が後である。

<4> 工番七五五二番

納品請求 五一年 三月 一日

検収 五一年 五月一五日

<5> 工番七五六七番

納品請求 五一年 四月 八日

検収 五一年 五月一二日

<6> 工番七五六八番

納品請求 五一年 三月 六日

検収 五一年 三月一五日

他方、原判決は、特に左記の工番の工事については、被告人会社がすでに納品請求している事実を、検収時期認定の大きな根拠に掲げている。

<1> 七四七七 <2> 七四九〇 <3> 七五〇五 <4> 七五〇二

<5> 七五三七 <6> 七五五二 <7> 七五六一 <8> 七五六四

<9> 七五六七 <10> 七五六八 の各工事

しかし、これは、被告人会社の納品・請求が売上計上すべき時期とは関係なく、機械的に主要機器を発送したときに送付しているという前述の事情を考慮しない、形式的な判断による誤つた認定というべきである。

七、以下に売上繰延の認定について工番毎に検討する。

(三) 七三五二番

原判決は、証人楠本の証言に基づき昭和五〇年二月二〇日を検収の日と認定し、その信用性の根拠として、同人の証人尋問調書添付のメモ書きに「七五・二・二〇炉布、耐圧限度保証期間について文書受領により出口切替弁、取り替えにてOKとする」旨の記載があることを挙げる。

しかし、右記載は、「出口切替弁、取り替え(をすること)にて」という条件で、OKしたものであつて、その日に機器が完成したという記載ではない。これを原判決は誤解している。同人の証言中には、被告人会社と「三方分岐ダンパー」についての追加をした旨の証言があり(右調書九丁)、同人の回答書(検58)にもその記載があるが、これが前記の「出口切替弁」である(ダンパーdamperとは調節装置一般のことである)。これが完成して初めて機器が完成したことになるのであつて、それまでに検収があつたとする原判決の認定は不当である。

(四) 工番七三六九番

1 証人池田は、部下に作成させた回答書(検61)の記載のみを根拠に証言するため、原判決も同人の検収時期についての証言部分を措信していない。原判決は、千代田組の売上計上時期が昭和五〇年三月であること、及び、被告人会社の技術社員の出張の出張旅費精算書が昭和五〇年五月以前分しかないことを根拠に検収時期を認定している。

しかし、検収立会のために被告人会社社員が出張するのは、技術社員である必要はなく、営業社員であることもある。そして、営業社員が出張する場合の旅費を各工番の工事費ではなく一般管理費販売費として計上しているのは、被告人会社の一般的処理である。したがつて、それが本工番の工事費用に計上されていないことから、本工事のための費用でないとすることはできない。

さらに、千代田組の売上計上時期についても、同社がいつの時期に代金を回収しているのかも不明であり、実体を伴つているのか不明である。

2 被告人会社と千代田組との契約の代金支払いの定めは、代金は二回の分割払いであり、第二回の支払いは客先検収後に1/3の支払いであるところ、追加金を含めた代金総額一四〇〇万円の約1/3に当る金四二〇万円について、被告人会社の請求が昭和五〇年八月二九日付でなされ、千代田組の支払いが、昭和五〇年九月に支払われている。

前記のとおり、納品請求を機器の発送時点で行なう被告人会社の請求ですら、残代金の請求は、昭和五〇年八月二九日付でなしているのである。原判決が、かかる事実を無視し、その検収時期を昭和五〇年三月とするのは、独断である。

(六) 工番七三七五番

1 原判決は、A・B二式の工事が一体のものであることを認めるごとくであるが、しかし、A工事は昭和五〇年一月二五日に最終検収を受けていた。B工事もすでにそれ以前の四九年一二月四日被告人会社とも協議のうえ中止の決定がなされていたことを認定し、昭和五〇年一月二五日に売上を計上すべきであるとする。

2 しかし、昭和四九年一二月ころに被告人会社がB工事の中止について協議を受けていたとの認定は事実に反する。原判決の根拠は、証人臼井の証人尋問調書添付の禀議書の記載、及び大三商会が変更後の金二一一五万円を昭和五〇年四月三〇日までに支払手続を受けていること、につきるというべきであるが、それはあくまで住友電気工業と大三商会との内部的な処理手続に関するもので、被告人会社が変更後の定めに従つて行動したことをうかがわせる証拠は何もない。被告人会社は変更前の昭和四九年一一月に大三商会から代金の一部を受けとつて以後、変更後の代金を受けとつたり返したりしていない。このような薄弱な証拠に基づきB工事の中止につき被告人も協議受けたことを認定するのは不当である。

3 被告人会社はB工事の機器を製作したが放置されたままとなり、昭和五〇年七月になつて工事の中止の通知を受けたものである(小泉三一回三九丁以下)。

(七) 工番七三八八番

1 原判決は、「被告人会社が第一実業から受注したエポキシフレーク空送設備一式金二一四八万五五〇〇円と旭エンジニアリングから受注したロータリーパルプのシヤーピンルーツブロワー駆動用ギア金三〇万円とは、発注者も異なり別個の工事であると認定した上、前者の空送設備一式は昭和四九年六月末に、後者は昭和五〇年三月末にそれぞれ検収を受けている」旨判断する。

2 しかし、前者について、昭和四九年六月末日を検収日とする認定は、原判決押収番号六一年二九三号三九番の箱の中の「第一実業株旭ダウ水島3MEX向ロータリーバルブ改造RV-8改、RV-8新」のファイル(検昭和五三年領第三二一八号符第二〇二-二〇号)の書類から認められる事実に反するものである。

すなわち、同フアイルには、<1>昭和四九年一〇月二九日付の、3MEX装置用ロータリーバルブ改造外一式について合計一七六万円の見積書が存在する。その工番は七三八八-二で、本工事の追加工事であることが明らかである。そこには、右追加工事は同日一七〇万円で決定した旨記載されている。

<2> 昭和四九年一〇月二九日付の、「旭化成水島AHS外工事追加工事契約決定通知」によれば、七三八八の追加工事は、「仕様変更現地追加工事費」と記載されており、しかもそれは工事番号を新たに付すものとは区別されている。したがつて、それが仕様変更がなされたための現地での追加工事であり、元の空送設備装置工事と一体をなすものであることは、明らかである。

そして、この追加工事については、<3>工番七三八八-追二のロータリーバルブについて昭和五〇年六月一九日に被告人会社の吉岡一志が検査した旨の昭和五〇年六月二三日付の検査記録がある。したがつて、旭化成の検収は、それ以後ということになる。

3 そうであるなら、その製作の時期は、昭和五〇年三月二七日発注のあつた、3MEXフレーク輸送設備予備品金三〇万円の注文時期とも一致する。そして、これと前記工事とは形式上は第一実業を介在させていないという差はあるものの、実質はいずれも旭化成水島工場に設置するため旭エンジニアリングから受注したものであり、機能的にも前記工事にこの機器を組込んで一体となし、一定の稼動条件を満す空送設備装置となるものである。したがつて、両者を一体のものとして同時に売上に計上したことは合理的であり、原判決が二つの工事であると判断するのは事実を認定し、ひいては売上計上時期につき法令適用の誤りを犯すものである。

(九) 工番七四〇二番、七四〇三番

1 原判決は、本七四〇二番の工事につき、第一実業の売上および仕入の計上時期(昭和四九年七月)をもつて、旭化成の検収が終つたと認定しているが、これは原判決が後述の七四〇六の工事について、第一実業の売上および仕入の計上時期をもつて旭化成の検収が終つたと認定できないとしているのと、矛盾する。弁護人は、同じ契約当事者の工事については常に同じように検収がなされるとは主張しないが、別異に解するにはそれなりの理由がいるものと考える。

原判決の認定する事実では、そのような理由は見当らない。原判決は、総論でも述べた通り、機器納入渡しにつき単品の売渡と同様に解釈し、単に機器の搬入をもつて売上に計上すべしという判断をなしているもので、根本的な判断の誤りを犯しているものである。

2 さて、原判決は、七四〇二番の工事と七四〇三番の工事は受注時期からして別個の工事であり、七四〇二番の工事は、昭和四九年七月二日に検収を終えていたと認定する。

しかし、それは、前記の原判決押収番号六一年二九三号三九番の箱の中の「第一実業株旭ダウ水島3MEX向ロータリーバルブ改造RV-8改、RV-8新」のファイル(検昭和五三年領第三二一八号符第二〇二-二〇号)の書類から認められる事実に反する。

すなわち、昭和四九年一〇月三〇日付「旭化成水島AHS外工事追加工事契約決定通知」によれば、「7402」の後に「 3 」という記載があることから、その当時すでに七四〇二番と七四〇三番の

工事が一体のものとしてあつたことが明らかである。正式の見積書を出す以前に工番が付されていることは、ありうることである。よつて、七四〇三番の工事を昭和五〇年六月二日付の見積書提出により始まつたとする原判決の判断は不当である。

そして右書類には、七四〇二番、七四〇三番の工事については、「仕様変更に伴なう追加工事、材料値上りに伴なう値増費」として、七三四八番の工事との合計額で合計金一五〇〇万円プラスする旨記載されている。このような内容で追加工事の契約が決定した旨通知されているのである。すでになされた追加工事の金額の決定ではない。したがつて、右工事については、昭和四九年一〇月三〇日以降に、仕様変更がなされたための追加工事がなされたことが明らかである。そこで、七四〇二番につき昭和四九年七月二日に検収がなされたとの認定は不当である。

3 本件は当初、SHSスタイロン輸送設備機器一式の注文を受け、四九年五月二九日ごろ機器一式を納入したが、仕様変更などがなされて試運転が遅れたところ、客先の期待した稼動能力が発揮されず、そのためには新たな機器を増設しなければならなくなり、二方切換弁一式・ローターフィルダー一式を追加設備しなければならず、右注文を受けたのが後者の工事であり、これを一体として前者の輸送設備に組込んで一体の工事としたものである(証人柏原六回三一丁)。然る後、右設備一式の試運転・検収が五一年七月になされたのである(証人榊原二五回二一ないし二五丁)。従つて右五一年七月をもつて売上計上時期とすべきである。

(一〇) 工番七四〇五番

1 本件について、原判決が被告人会社の主張を排斥したのは、要するに、被告人会社が商社である中央工機を介して、日立製作所から受注した、左記二つの契約は、時期が別個の別口の契約であり、被告人会社が試運転指導をしたのは後者の契約によつて初めて義務を負つたからということである。

<1> 昭和四九年一二月一〇日、CPE PLANT用空気輸送設備一式(代金合計二億五四八〇万円)の契約

<2> 昭和五一年六月九日、CPE等ニューマ据付指導(代金三一〇万円)の契約

2 その根拠は明確ではないが、四四丁表一一行目の「けだし、」以下によれば、

まず、別口の契約ということについては、中国技術進口総公司の契約相手方となつた乙側が、契約工場建設のための設備、材料等の「物的なものの供給」と、組立据付等の「技術指導」を区分けしているとし、そして、乙から請負つた日立製作所も区分けし、中央工機を介して日立から請負つた被告人会社も区分けしていた(はずだ)、という認定に基づく。

そして、時間的な前後関係については、日立製作所は、被告人会社等の下請業者が機材を納入しこれを検収した後その技術指導を必要と判断したときには、別途技術員派遣契約を締結して出張させているという認定に基づく。

3 しかし、右の乙側が、契約工場建設のための設備、材料等の物的なものの供給と組立据付等の技術指導を区分けしているというのは、証拠がない。また、日立製作所が技術員を出張させているのが、被告人会社等の下請業者が機材を納入しこれを検収した後に必要の判断したときという認定も事実に反する。その理由を以下に詳述する。

4 昭和四八年七月二五日付の中国技術進口総公司と三菱油化らとの契約書(検85の確認書)(以下原契約書という)第二条においては、「乙は、・・・・契約工場が安全に安定した生産を行なうことを保証するために必要なすべての生産設備、電気設備、計器、計装及び自動制御装置、配管並びに据付材料、二年分の予備品予備部品、一年分の化学薬品等及びバッテリーリミット範囲外の補助生産設備を供給する責任を負い」、それと「同時に設計資料、生産技術資料、ノウハウ技術資料、特許技術資料及びノウハウ技術、特許技術の使用権と技術サービスを提供する責任を負う。」と定められている。

そして、右契約書の第三条では、「乙が甲に提供する技術サービスは下記のとおりとする。」とされ、その第一号に「一 経験のある、技術的に習熟した技術者を契約工場に派遣し、技術指導を行なう。」とされているのである。ただ、「乙の技術者の職責及び甲が負担すべき乙の技術者の関係派遣費用及びその他の関係事項については、本契約調印後双方別途協議の上契約に調印する。」とされているだけである。

右契約においては、物的なものと技術員の派遣の双方について定められており、かつ、すでに技術者を派遣する旨は決められており、ただ単にその技術者の職責及び甲の負担すべき乙の技術者の派遣費用という細則だけが別途協議となつていたのである。

5 中国技術進口総公司と三菱油化とは昭和四九年四月一一日、「技術員の派遣に関する補充契約書」(検85の確認書)を締結しているが、これはあくまで派遣人数、期間及びそれに対し甲の支払うべき費用の具体化による補充である。「補充」という意味は、その契約が独立の意味を有するものではなく、原契約を補完し、それと一体となつて一個の契約を構成するものである。それが補充契約の意味であつて、それを独立の契約とすることは不可能である。このことは、その約定からも明らかである。すなわち、「一乙の技術者の派遣について (一)乙は甲に対し技術的に習熟した健康な技術員を派遣しなければならない。」と原契約書と同様の文言を定めた後、「その専門職務、人数及び勤務期間の目標及び技術指導費は付票(1)のとおりとする。上述の正確な専門、人数、中国滞在勤務期間及び原契約工場に到着し離れる時期は本契約工場の建設任務の実際の必要に基づき双方が別途協議し決定する。」と定めるのであつて、原契約書を少し具体化しただけである。

6 さらに、弁八七号証は、日立の高橋紀行が、同人のゴム印の日付である昭和四九年一一月二〇日ころ被告人会社に対して、本件工事の契約内容を明示した書面であるが(小泉四七回公判供述、一丁以下)、その納入形態の欄には試運転指導まで原契約の契約内容に入つていることが明記されている。その時期は、被告人会社が本件装置一式を受注した昭和四九年一二月一〇日と同じ時期に当り、当時すでに被告人会社が技術者を派遣すべき義務を負つていたことを示すものである。が、原判決はこのことを説明できない。

7 また、原判決の理論は、被告人会社と中央工機との昭和五一年六月九日CPE用ニューマ据付指導の契約で定められた費用の内容からも無理がある。けだし、その内容は検85の昭和五一年三月三一日付見積書に明らかなとおりの技術員派遣に要する実費弁償の内容にすぎないからである。

四九年一二月一〇日の中央工機と被告人会社との当初契約の二億五四八〇万円の中には、試運転据付等のための技術者派遣も内容として含まれているが、右派遣が外国であり、渡航の期間、人数等につき不明確な点が多々あるため、派遣員の旅費、宿泊代等の実費は別途支給することとし、それを後日決めたに過ぎない。つまり請負工事のうち技術者派遣員の不確定部分の旅費、宿泊代のみ実費支給とし、後日別途支給することの取決めを行つたのである。このことは、前記弁第八七号証の「派遣条件」の欄の記載によつても明らかである(小泉四七回三丁以下)。

原判決は、組立据付や試運転の「指導等を行なう費用などについては、別途補充契約書を取り交している」という判示(四四丁表冒頭)における「指導等を行なう費用」にどういう費用を含むと認定したのであろうか。その費用は、原契約書及び補充契約書の文言に明らかなとおり、甲の負担すべき費用についての定めであつて、技術者派遣の受注代金全部を含むのであれば、「甲の負担すべき費用」などとは書かない。単に代金ないし価格と記載するはずである。そして、現実にも、補充契約により甲に対して支払われたのは、派遣員の旅費・食事代・日当に過ぎず、そのための報酬などは含まれていないのである。しかるに、原判決の認定は、右費用が技術者の派遣という注文に対する代金を定めたという認定を前提とするもので、誤つた前提事実を基にしている。

8 本件工事につき中央工機の担当社員であつた証人川崎、及び、証人神崎の証言によれば、被告人会社が当初から装置の性能を達成するために技術員を派遣することを予定していることを前提に証言しており、二つに分けたなどとは全然証言していない。原判決は、これを法的判断を含んだ証言であるとして排除しているが、契約は法的なものであり、その内容についての証言が法的になることは当然であり、それを法的であることを理由に排除することはできない。

そして、中央工機の会計処理が被告人会社の処理と必ずしも合致しなければならないことはなく、また、日立製作所や中央工機が代金を一部留保していない理由は同人らが明確に述べるところであり、合理的なものである。それにもかかわらず、右事実を根拠に川崎、神崎の証言を排斥するのは不当である。

9 本工事については当初から機器の据付試運転指導を行なうことになつていたことは、被告人小泉が供述するところであるが、原判決はこれを次の理由で排斥しているが、

その理由とするところも合理的でない。その理由とするところは、「日立製作所は、本件契約工場のため、被告人会社以外にも契約工場に用いる機材を発注しているが、被告人会社の機材等についてのみ特別な約定をした事情は伺われない」と判示である(四五丁表末尾)。

しかし、日立製作所と被告人会社以外の受注先との契約がいかなるものかを個別的に認定しておらず、そのための証拠も示されていない。結局、その根拠とするところは、昭和四八年八月六日付仕様書の(4)施行工事範囲別の20試運転調整の欄に「別途」と記載されていることだけである。かかる文言のみを重視し、証人の証言を単に法的証言であるからという理由で排斥する態度は、妥当とはいえない。

むしろ、「別途」という文言が記載されていることから当時すでに試運転調整の施行が問題とされていたことが伺われる。問題にならないのであれば印を付けないだけである。

そして、先に述べた理由により、中国技術進口総公司と三菱油化との原契約書により、すでに技術者の派遣が予定され、甲の負担すべき費用だけ別途協議により決められることになつていたのである。元請のかかる契約内容を前提にこの文言を解釈すれば、「別途」という文言は費用を別途に請求するという意味にも十分理解しうるのであつて、かかる舌足らずな表現をすることはありえることである。なぜなら、それで、当事者間では何も問題にならないからである。

なお、原判決は、昭和五一年の協議の際に派遣費用の変更が問題にされていないということを被告人小泉の主張を排斥する理由に掲げる(四六丁表)が、このことを理由に掲げる意味が分らない。それ以前の当初の契約において技術者を派遣すること及びそのうちいくらかを甲が負担することは決つていたが、その費用の額については後日協議のうえ決めることになつていた。そして、昭和五一年になり技術者の派遣の明細が明らかになつたので費用が決められ、変更が問題にならなかつたとしても何ら不思議ではない。

10 このように契約関係者である証人の証言、被告人の供述を一切無視し、単に仕様書の「別途」という一文言のみにこだわるのは、独断である。原契約書、補充契約書、前記各証人、被告人小泉の供述によれば、被告人会社は、当初の受注段階で、すでに乙側に立つ日立製作所の社員に代わり継続的な技術指導をするため、被告人会社代表者らが中国へ赴き試運転指導等をすることを内容として受注したというべきである。

11 被告人会社がプラント工事のうち中央工機を介して受注したのは、日立製作所が受注したポリエチレンの製造プラントのうち、ポリエチレンペレット仕上工程における複雑で重要部分を占める空気力輸送設備である。ポリエチレン製造工程の瓦斯体(モノマー)の重合部分から成形されて出来てきたポリマーを種々の処理をしながら最終の袋詰めまで送るもので、数百メートル数系列に及ぶものである。しかし、ポリエチレン製造工程の一工程として全体の工程に組込まれるもので、空送設備としては独立した工程ではあるが、ポリエチレン製造の全工程からみると一工程に過ぎないものである。

右空送設備は、ポリエチレンペレットの仕上工程に接続されるものであるので、ポリエチレンの製造に関する他の部分が完全に作動しなければ勿論プラント工場全体の製造能力が発揮されないのと同様に、この空送設備部分も所期の条件どおり完全に作動しなければ、ポリエチレンの生産も円滑に稼動しないのである。右空送部分の工程は日立製作所の技術をもつてしても独自に工事を施工できないものであるから、被告人会社は、日立製作所の下請という形式をとるとしても、空送部分の工程については同社が公司に対して有する請負の債務をすべてをそのまま被告人会社が履行しなければならないのである。

被告人会社と日立製作所との契約(中央工機を介しての)は、当初からそういうものであつたので、それを機材の納入検収後に初めて技術員を派遣する必要が生じたと認定するのはこじつけとしか言い様がない。

12 仮に、原判決の通り別個の契約としても、それぞれ別異に売上計上すべしとする判断もまた誤りである。

これまでにも述べた通り、空気力輸送装置は独自技術にもとづく機械装置で、わが国でも僅か二、三社がこれを注文により製作しているに過ぎない。空送する対象物資がももと種々様々であり、しかも化学の進歩により新化学物質が生まれる。そして客先の工場の一工程に組込み据付けられる。被告人会社では、これを納入前に試運転始動させることは出来ない。そのため据付後運転し調整しなければ当初契約どりの性能が発揮されることにはならない。しかもある程度の連続稼動に耐えて、初めて保証する(客先の要求する)性能に達しているかどうかが識別し得るのである。そして、現実にも試運転による調整や補修は殆どの場合行なわれるのが実際であり、その補修調整等の手直により初めて客先の検収が得られ、そのときから保証期間が始まるのである。

右の如き空送設備の請負契約の特殊性から判断すると中央工機を通じ日立製作所から受注した本件空送設備についても、他のポリエチレン製造の部分が完成し、これと一体のものとして右設備を設置し、全体として稼動させ、すべての能力が発揮されることにより検収されて、その結果右空送部分について被告人会社の請負工事が完了することとなるのである。

そうだとすれば、仮に、原判決のとおり二つの契約であつたとしても、元来一個の契約であるべきものを便宜上二つに分けたに過ぎず、それによつて売上をそれぞれ別個に計上するのは論理的ではない。そのことは、例えば、建築請負契約について、一階部分の工事金額とそれ以外の工事金額を便宜的に分けた場合、一階部分が完成したからといつて、これを二つに分けて売上計上するのが不合理であるのと同様である。

仮に、被告人会社が工事請負契約の売上計上基準につきいわゆる工事進行基準を採用していたとすれば、例えば、右の例で一階部分が完成したときにその部分の売上を計上するような処理をすることは可能であり、そうすればやや原判決に近い結論が得られるかも知れないが、被告人会社は工事完成基準を売上基準としているのであり、そうである以上、原判決の売上の時期に関する結論は不当であることは明白である。

13 証人高橋紀行(昭和五四年八月二三日出張尋問)、同川崎祐弘(同日出張尋問)、同神崎公生(同月二四日出張尋問)の証言及び「CPE PLANT製造品混合輸送設備の件」と題する書面(弁九号証)及び「検収通知」と題する書面(弁一〇号証)によれば、本件装置については、試運転において問題が生じ、ようやく昭和五二年(一九七七年)九月ないし一〇月に試運転が完了したことが、明らかである。それ以前は被告人会社においては受注した仕事が完成していないのであつて、前記売上計上基準によれば、売上を計上すべきではないのである。

被告人会社は、昭和五二年一〇月に試運転を完了し右検収通知(弁一〇号証)を受けたので、右基準にもとづき、昭和五三年五月期において右金員全額を売上に公表記載している。右通知は、前記弁八号証の「引渡条件」の欄に最終引渡について証明書を出す旨記載されている証明書であり(小泉三四回八、九丁)、被告人会社の処理に売上繰延べ、売上除外の事実は全くない。したがつて、原判決の売上計上時期の判断は、事実を誤認しひいては法令適用の誤りがある。

(一一) 工番七四〇六番

1 原判決は、判決記載<1>ないし<4>の事実を認定したのち、「以上の諸事実によれば、被告人会社は、第一実業を通じて旭化成から、ペメックス向けの空気力輸送装置関係の設計及び仕様書作成を請け負つたものに過ぎず、右設計書及び仕様書に基づく組立据付け等の現場指導までは請け負つていないものと認められる。」と認定するが、これは事実を誤認するものである。弁護人にはなぜ以上の諸事実からこういう認定になるのか理解不能である。

2 原判決の認定した検収の時期、昭和五〇年八月は、第一実業が旭化成から残代金三〇〇万円の支払いを受けた時期である。弁護人は、代金の支払いが検収の時期とは関係しないと考えているが、それを重視する原判決の態度では、被告人会社が支払いを受けたのは昭和五一年九月一〇日であるが、このように第一実業が自らは支払いを受けておりながら、一年以上も被告人会社へ支払いをなさなかつたことの説明ができない。これを第一実業の営業サイドのミスとしてことさら無視して事実認定するのは、いかにも安直である。

3 さらに、原判決は、第一実業に勤務し、被告人会社との取引にも実際に関与した佐藤の証言を、単に<1>業務分担詳細(弁14)の立会テストの欄に「必要に応じてペメックスの指示と判断にて決定」と記載されていること、<2>旭化成とペメックスとの契約内容に照らして、措信できないとする。そして、営業経理を担当しているだけで、営業的処理、伝票に基づく経理処理だけしか知らない川本、小川の証言を採用する。

これも、不可解な証拠の採否である。佐藤がなぜ被告人会社のために偽証しなければならないのかという問いに対して、原判決はどう説明するのであろうか。なぜ、経理だけしか知らない者の証言が優先するのであろうか。また、旭化成とペメックスとの契約(検92)の第三条2項には、

「スーパーバイジング・サービスとして、「旭」は、「PEMEX」によつて実施される機器の検査、「プラント」の据付並びにスタート・アップ運転に関して「PEMEX」に技術的助言並びに指導を与えるために、「旭」との相談を経て「PEMEX」が決定した人数並びに期間、「旭」並びにその下請業者の技術要員をメキシコ国に派遣することに同意する。

かかる技術要員の派遣に関するスケジュール並びに詳細な条件は、「PEMEX」と「旭」間の書面による協議並びに合意により、後日決定されるものとする。」と定められている。

これがどうして、佐藤の証言を措信できない根拠になるのであろうか。

さらに、業務分担詳細(弁14)の引用も一部のみを取り挙げて、全体の趣旨を曲げている。

右の表の「立会テスト」及び「現地工事指導員」の二項目とも、旭化成、被告人会社、IHIの各社について「派遣」となつているのである。そして、「立会テスト」については備考欄に「必要に応じてPEMEX指示と旭判断にて決定」と、「現地工事指導員」については備考欄に「PEMEXのApprovalに基づく」とおのおの記載されているのである。これは、派遣することは決められているが、旭化成とペメックスとの契約(検92)の第三条2項にいう「「旭」との相談を経て「PEMEX」が決定した人数並びに期間」に従うという意味である。原判決の認定するように、備考欄の記載は行くか行かないかもその時に決める趣旨であれば、旭化成も行かなくてもよいことになり、それは旭化成とペメックスとの契約の内容に明らかに反することになる。

4 要するに、本工事についての判示は、第一実業と被告人会社との請負代金の授受の年月日に目を奪われ、第一実業から代金支払がなされたことから、検収も受けているものと推論するものであり、被告人会社の請負の内容等の実体及び空気力輸送装置の設計図面・使用書作成の目的を理解しない形式理論に過ぎない。

5 被告人会社は、商社である第一実業を介在させて、旭化成工業から同社がペメックス社から受注し請負つた、高密度ポリエチレンに関する技術・エンジニアリング・機器の調達サービス・プラント設備の現地建設に関する据付試運転指導のうち、旭化成では実施不可能な空気力輸送装置(ニューマ機器・配管)部分について、旭化成の下請業者として設計図・仕様書作成、配管施工図作成ならびに現地での立会テスト・現地工事指導員派遣等を含む契約(旭化成とペメックスとの契約(検92)第三条参照)を締結したのである(業務分担表(弁一四号証)。佐藤宏の二三回一一ないし一四丁・一九丁・四二丁。被告人小泉三二回一五ないし一九丁など)。

6 そして、本工事については、昭和五〇年一〇月に港栄太郎が旭化成工業の担当者と設計図面の作成内合せをし、同人が昭和五〇年九月二六日、二八日、同年一〇月一五日ペメックス関係での出張の事実(同人の二〇回二四、二五丁、二一回一ないし四丁、押二4)が認められる。

また昭和五三年には現地での工事が着工されたが、種々トラブルが発生し、試運転が遅れたので被告人会社から配管要領書・試運転要領書を旭化成工業に送付し、同社が昭和五四年五月、被告人会社に代つて現地工事・試運転立合等を完了させたのである(港栄太郎二一回ないし四丁)。

7 しかも、本件は、取調べ官山口攻が被告人会社の主張を認めたメキシコプラント(工事番号七四四六)の工事に関する設計・指導料であるから、同工事を昭和五三年五月期に計上することを担当取調官山口攻によつて認容された以上、本件工事も同時期に売上に計上すべきで、昭和五一年五月期に計上されるべきものでないことは明らかである(証人山口攻の昭和五八年一月一七日公判調書二丁参照)。

(一二) 工番七四五六番

1 原判決は、四八〇〇万円分と四〇〇万円分とは別の時期に検収を受けており、「その間の注文納入過程をも考えれば、両者は別個の工事である」と認定する。

しかし、その前半部分は答えをもつて答えを根拠付けるもので、理由にはなつていない。後半部分の「その間の注文納入過程をも考えれば」というのは趣旨が不明である。

2 三井造船と被告人会社との四八〇〇万円の契約は、中国技術進口総公司のプラント建設のためのスライドダンパー、ロータリーバルブ、二方切換弁の製作であつたところ、追加工事は右プラントの仕様変更に伴なうスライドダンパーの追加であつた(証人坂中の出張尋問調書七丁)。

右四〇〇万円の追加工事は、スライドゲート弁の仕様変更に伴うものと原判決も判示しているとおり、当初の空送工程の設計変更である。これを詳述すれば、スライドダンパーAC二八台を受注し、これを製作し、未だ三井造船の検査を受けない段階に、三井造船から当初設計のスライドダンバーでは空送能力が十分でないため、機器の能力をアップすることを要求され、仕様を変更したもので、能力をアップした設計変更(厚み一〇ミリを8ミリまで削り直したもの)とこれによる製作の追加工事代として四〇〇万円と定まつたものである(坂中博志出張尋問調書一三丁、榊原富士夫二五回一五丁以下)。

原判決は、四〇〇万円の工事はスライドゲート弁であるとして別個の機器の如く理解しているが、スライドゲート弁とは結局スライドダンパーと同一であり、その二八台を機械内部構造の仕様を変更したに過ぎないものである。被告人会社、三井造船とも従前同じ工番で処理しているものである。

3 従つて、全体の受注としては仕様変更により金五二〇〇万円の工事となり、かりに原審の如く変更後の検収が五一年一一月三〇日としても売上計上年度は五二年五月期となるべきであり、原判決は破棄を免れない。

(一三) 七四六二

1 原判決の認定する事実は、左記のとおりである。

昭和四九年八月二二日頃、第一実業→被告人会社へ、HFMプラント用ニューマ機器一式を発注する。

旭化成右工事を延期する。

昭和五一年一月二月 納品

昭和五一年三月 旭化成→被告人会社へ、HFM用排気フィルター発注する。

昭和五一年三月九日 第一実業→被告人会社、ニューマ機器発注する。

昭和五一年三月一五日 納品請求。

昭和五一年三月三一日 第一実業が売上と仕入を計上する。

旭化成、再び工事中止する。

五月と八月 代金相当額の約束手形を受領した。

昭和五二年六月三〇日 被告人会社が転用不可能部分を引き取る旨の合意まとまる。

原判決は、第一実業が本工事について売上と仕入を計上した昭和五一年三月末日をもつて検収日と認定している。

2 被告人会社が機器を相手方工場に搬入しただけで検収が終つたとすることはできないことは、既に売上計上時期に関する総論で述べたとおりである。据付後試運転し、性能を達成したことを確認しなければ、被告人会社の債務は終つたことにはならない。このことは、第一実業の担当者佐藤が明確に証言するところであり、そのことが第一実業以外の相手方との契約にも当てはまるかは問題となりうるにしても、第一実業との契約ではかかる趣旨であることは否定の仕様がない。だからこそ、第一実業の川本証人も、いわゆる請負契約としての引渡は納入された本件機器の試運転完了により完了する旨証言している(三九回三丁)。

したがつて、本工事は据付がなされる以前に旭化成によつて中止されてしまつたのであるから、工事中止以前の時期において検収がなされたことなどありえない話である。

3 第一実業の川本の証言によれば、第一実業の売上については、「厳密なことをいいますと、どう(そう?)いうことなんでしょうけれども、わたしども、日本空気力さんとは向こうさんがやつぱり納品書請求書が来たらその時点でわたしどもは売上をあげます」(五五年三月四月出張尋問調書一一丁)ということからは、売上の計上が厳密の検収に基づきなされていないことが認められる。また、「わたしどもの方としましては、技術的なことは商事会社ですから、責任うんぬんはございません」(同調書一九丁)という証言からも、売上、仕入の計上が簡単になされていたことがうかがわれる。つまり、商社が本件契約に介在するのは、発注者と請負人との間にたち信用を供与することにより単にコミッション収入を目的としており、被告人会社が工事請負契約について工事完成基準を採用し、工事完成時に売上を計上するのとは全く事情を異にしている。原判決が、これらの証言にかかわらず、売上計上は検収があつたからなされた推認とするのは理論的でない。

4 本工事は機器納入後試運転に至らないまま、旭化成工業において生産工場増設計画が市況悪のため取止めとなり、本件機器も他に一部転用し、一部は被告人会社が引取ることとなつたのである。右引取ることとなつたのは昭和五二年六月であるので、結局五三年五月期の売上に計上すべきである。

5 原判決は、第一実業の代金の支払い(約束手形の振出)と被告人会社の引取代金の決定を全く別の話として、別個に処理しなければ違法とするが、引取りは実質的には代金支払いの条件、値引きの話であつて、これを実質に従つて一体のものとして処理したことにつき合理性があるものと言わなければならない。

(一四) 工番七四七七番

これについては、昭和五〇年六月一六日に試運転立会に赴いた旨の証人港の証言(二〇回公判調書二五丁)を、同日付の出張旅費精算書に四日市鉄鋼所(東曹)の記載しかないことを理由に信用できないとするが、出張旅費精算書は内部的な支払手続書類にすぎず、出張先を全部記載するものではなく、そこに記載がないことから出張の事実を否定することはできない。かえつて、本工事は三菱モンサントの四日市工場へ納入したもので、同工場と四日市鉄鋼社とは同じ四日市にあるのであるから、同時に行つたことが認められる資料である。これを無視する原判決の認定は不当である。

なお、原判決は、榊原が昭和五〇年六月一八日から二〇日まで三菱モンサント本社に赴き検収確認した旨の証言も、試運転立会でないとして排斥するが、同人は試運転の結果につき、契約どおりの稼動能力ありと客先が認めたかどうかを確認したものであるので、何も試運転に立会つたものでないことは証言自体に徴し明らかである。原判決は、試運転立会以外には検収はないと断定した結果、かかる事実誤認を犯したのである。

(一五) 七四九〇番

1 原判決は、本製品が相手方工場に納品された昭和五〇年三月一四日をもつて、検収日とする。それは、日本合成ゴム四日市工場への荷卸渡しの約定であるので、客先が右機器を工場に据付けて試運転を行い、検収した段階ではなく、荷卸渡しの検収さえ受ければ、被告人会社は売上に計上すべしと判示するものであろう。かかる荷卸渡しの約定の解釈の誤りであることはすでに述べたとおりである。

2 また、被告人会社の納品請求が同月一五日付がなされている事実も認定の根拠にする。しかし、被告人会社が納品請求するのは、出荷を終えればするのであつて、検収とは関係のないことは前記のとおりである。

3 本工事は、配管材料一式の注文であつて、その設置は機器の据付が完了して後それをつなぎ合せるので、その工事の時期は納品時期とは大幅に異なるのが通常である。そして、被告人会社榊原が昭和五〇年一〇月三〇日に相手方工場に出張した事実は、その出張旅費精算書により明らかであるが、かかる出張は検収から時間を置いて行なわれることはない。したがつて、その直前に検収がなされたことが推認できる。原判決は、同人の右出張を同社との同年一一月一七日付の発注に関するものであるとするが、それは証拠に基づかないこじつけである。したがつて、機器の売上計上は五一年五月期とすべきで、原判決は検収につき事実誤認がある。

(一六) 工番七四九三番、七五〇五番

1 七四九三と七五〇五とが一体の工事であることは、被告人会社の誤解であるので、かかる主張はしない。

2 七四九三につき、原判決の弁59号証についての解釈には無理があることは前述のとおりである。被告人会社は試運転立会を義務としてなさねばならなかつたのであつて、機器が納入された昭和五〇年三月二五日には被告人の義務が履行済みであつたはずがない。

3(1) 七五〇五について、原判決は、三菱化成の経理担当者吉田が回答書に基づき昭和五〇年四月九日に検収した旨の証言をしたこと、同社が同年五月末代金の支払の手続をしたこと、及び、被告人会社が昭和五〇年四月八日付で納品請求していることを根拠に、右五〇年四月九日に売上げを計上すべきであるとする。

(2) 右判決も、空気力輸送機器の納入渡しの場合には機器そのものの引渡し、検収日をもつて被告人会社の売上とすべきであるという一般的判示に基づくものであるが、右売上は試運転による性能発揮により検収されるべきものであるので、まずこの点の判断の誤りがあることは既に述べてきた通りである。

(3) 昭和五〇年七月九日被告人会社技術社員港が四日市工場に出張したことは出張旅費精算書により明らかであるところ、原判決はそれを同時期に同工場においてロータリバルブの修理関係があつたことから、そのための出張であるかもしれないとして、それが七五〇五のための出張であるという港の証言を信用しない。しかし、出張が二つの目的をもつてなされるということは可能で、原判決の理由は港の証言を否定する理由にはならない。さらに、出張の事実は契約の文言とともに契約の内容を決めるもので、それをあいまいなままにして「納入渡しの約定」のみを根拠に、相手方の経理処理に基づき検収時期を認定したのは不当である。

(一七) 工番七五〇二番

1 原判決は、味の素の経理担当者の足達が同社社員の作成した回答書に基づきなした昭和五〇年二月二六日に検収した旨の証言をしたこと、同社が同年四月一五日支払手続をしたこと、及び、被告人会社が昭和五〇年二月二一日付で納品請求していることを根拠に、右五〇年二月二六日に売上げを計上すべきであるとする。

2 原判決は、前同様に機器の納品引渡しの場合、機器そのものの引渡をもつて請負契約のすべての役務の履行が終了したとする点において、判断の誤りを犯しているものである。また、被告人会社の納品請求を無理に検収にこじつけている。本件の納品請求は判決の認定でも検収日以前である。

3 証人港が五〇年六月一六日、右機器の試運転に立会し、そのときに右機器の検収を受けたもので(同人の二〇回二六丁)、この日をもつて売上に計上すべきである。

なお、原判決は同人の出張旅費精算書(押二4)には味の素四日市工場の記載がなく、四日市鉄興社との記載があり、同人が前記日時に味の素四日市工場に出張したとの証言はたやすく措信し難いと判示するが、味の素四日市工場は鉄興社と近接しており、出張旅費精算書には必ずしもすべての出張先を記載しているわけではなく、右記載のないことをもつて味の素四日市工場に出張しなかつたとする判断は誤りである。

(一九) 工番七五三七番

1 原判決は三菱化成の直接の担当者でない西川が回答書に基づき昭和五一年五月一八日に、検収した旨の証言をしたこと、同社が同年六月末に支払手続をしたこと、及び、被告人会社が同年三月二二日付で納品請求していることを根拠に、昭和五一年五月一八日に売上を計上すべきであるとする。

2 原判決の右判断も、これまで述べた通り、機器の納入渡しであることから、同機器の据付・試運転を待つまでもなく、機器そのものが納入されれば売上に計上すべしとの議論の上に立脚した法的判断であり、その誤りであることは明白である。

3 本工事については、出張旅費精算書により昭和五一年七月一六日に被告会社社員榊原が相手方東京本社に出張したことは明らかである。

同人はこの時七五六一番の工事とともに本件について検収の確認をした。被告人会社が相手方の検収を知つたのはこの時である。また、三菱化成は月末に検収処理をすることになつており、被告人会社が三菱化成に月途中で問い合わせても検収の返事は受けられない。したがつて、本機器の売上は、昭和五二年五月期に計上すればよい。

かかる方法で一貫していたのであつて、それにつき刑罰が科されなければならない理由はない。本工事について見ても、原判決の検収日は昭和五一年五月一八日で、被告人会社の処理は昭和五一年九月二〇日で、決算日五月二〇日からいえば三日ずれただけのことである。

4 請負工事であつても相手方のなす機器の検収に必ず試運転立会しなければならないものではない。機器の種類、被空送物質によつては、試運転は相手にまかせ、被告人会社の手でないと調整出来ないことが判明して技術者を派遣することもある。その場合請負契約の目的たる機器の性能が発揮され、被空送物質が契約どおり輸送できれば、客先の検収が終ることになるので、被告人会社は電話であるいは、客先会社に赴き、試運転終了と検収の確認をすることになる。被告人会社としては、客先の検収を確認したことにより、その日の属する事業年度に計上すれば足りる。

(二〇) 工番七五五二番

1 原判決は、千代田化工建設の大野作成の回答書の検収日、昭和五一年五月一五日の記載、同社が同年六月一五日に支払手続をしたこと、及び被告人会社が昭和五一年三月一九日納品請求していることを根拠に、右昭和五一年五月一五日に売上を計上すべきであるとする。

2 右検収時期の記載がどれほど空気力輸送装置の実体を意識して書かれたものは疑問である。

3 被告人会社の社員鳥越が無負荷運転に立会つたが、サイレンサーが機能せず、朝日機工ヘブロワーを返送して補修し、昭和五一年夏に検収を受けた(同人の証言二四回六丁以下)。

4 仮に原判決の認定を前提としても、五月一五日の検収を相手方が正式に決めるのは同月末であつて、それまでに被告人会社は検収の確認が出来ない。

(二一) 工番七五六一番

本工事については、出張旅費精算書により昭和五一年七月一六日に被告会社社員榊原が相手方東京本社に出張したことは明らかである。同人はこの時七五三七番の工事とともに本件について検収の確認をした。被告人会社が相手方の検収を知つたのはこの時である。そして、五月一五日の検収は同月末にならないと確認できないことも同様である。したがつて、七五三七番の工事のところで述べたと同様に、本件についても刑罰を科されなければならない理由がない。なお、本件についても、検収の確認が決算日との関係からは六日後の年度になつただけである。

(二二) 工番七五六四番

1 原判決は、日本スチレンペーパーの社員である証人多久島の証言及びその作成の回答書に、検収日、昭和五一年四月二〇日とされ、同社が同年五月三一日代金の支払手続をしたこと、及び、被告人会社が同年四月二二日付で納品請求していることを根拠に、右昭和五一年四月二〇日に売上を計上すべきであるとする。

2 しかし、同人の証言により明らかなとおり、回答書は同人が倉庫の中を探すのが面倒なので購入禀議書の納期の記載に基づき記載したものである(調書二丁)。購入禀議書とは購入時における稟議の内容を記載したものに過ぎない。契約の履行が現実にいつなされたかを示すものではない。しかも、同人は、本工事について試運転をしたかどうかについては記憶がないと証言しているのである(調書六丁)。さらに、同人は、日本スチレンペーパーは被告人会社との取引が長いので、被告人会社の製品を信頼して、品物が納入された段階で仕入にあげる旨証言する(調書一〇丁)。このような証言及び回答書によつて、回答書記載に従つた認定をすることはできないはずである。

3 右判示も、機器の納入渡しの約定の場合には、機器そのものの納入により客先の検収がなされたものとの前提に立つ誤つた判断に基づくもので、右機器の五一年夏ごろ試運転・検収されたことを確認したもので、右機器の売上計上は五二年五月末とすべきである。

(二四) 工番七五六七番

1 原判決は、旭化成の亀川作成の回答書の検収日、昭和五一年五月一二日の記載、及び、被告人会社が同年四月八日付で納品請求していることを根拠に、右昭和五一年五月一二日検収をなした旨の認定している。

2 右検収時期の記載がどれほど空気力輸送装置の実体を意識しているか不明であり、その代金支払時期も不明である。

3 昭和五二年一月二六日付出張旅費精算書によれば、被告人会社社員穐友が同日旭エンジニアリングに出張している事実は明らかであるところ、それは試運転立会いのためである(柏原証言六回四〇丁)。したがつて、同日売上に計上すべきものである。原判決はその目的欄に「機器打合せ」と記載されていることから本工事に関するものではないとするが、社内的な処理のための右精算書に厳格に書かなくても何ら不思議ではない。原判決は右出張が試運転立会のためでないとすれば何のためのものと説明するのであろうか。

4 仮に原判決の認定を前提にしても、五月一二日の検収を相手方が決めるのは同月末であつて、それまでに被告人会社は検収の確認ができない。

(二五) 工番七五六八番

1 原判決は、「英文資料の提出を求められているとしても、本件においては、右は機器の指定場所に納入する契約に附帯したものと解され、主要な債務の内容と解することはできない」として、機器についての検収時に売上を計上すべきであるとする。

しかし、簡単な電機製品であつても取扱説明書がないと使用するのは困難であることは常識であるが、機器であれば使用は不可能といつてよい。原判決がいかなる理由に基づき英文資料の提出を軽視するのか不可解であるが、仮にその作成提出が主要な債務でないとしても、主要な債務が完了したら売上に計上すべきであるとする売上基準など存在しない。原判決の論理は独断である。

2 被告人会社が納品して二、三ヶ月後に英文図面を提出したことは、被告人小泉の供述、証人港の証言、引合仕様書により明らかである。したがつて、昭和五二年五月期に売上を計上すればよい。

八、売上除外について

1 被告人会社は昭和三四年創立以来売上除外をしたこともなければ、その点にて税務当局の調査で指摘されたこともない。

2 被告人会社において収入金は現金収入がなく、殆ど手形・小切手等又は振込みによつている。右のように手形・小切手又は振込みの入金では相手方、銀行等に完全な入金証拠が残るわけであるから、このような顕著な証拠を残したまま売上除外をするようなことは出来ない。世上飲食店、パチンコ店等の現金売上の多い店とか又は病院において、その現金収入について売上除外がなされるゆえんである。

従つて、被告人会社において、これらの売上を除外するためには先ず客先の支払状況(手形等の支払、税金の申告)の証票を隠滅して貰わねばならず、又これら手形等を受入れている銀行(手形の受取人は被告人会社)に依頼してこれらの事実を消滅して貰わねばならず、このような工作は不可能に近い。

3 本件起訴では五〇年五月期に

(1) 中央工機産業(株)への売上 九、五八〇万円

(2) 第一実業(株)への売上 一、八二四万二〇〇〇円

五一年五月期に

日産石油化学(株)への売上 三、〇〇〇万円

を除外したとされている。

何れも客先は大会社であつて前記工作に応じてくれる筈もなく、又何れも手形入金で被告人会社が受取人となつて銀行に取立に廻しているのであるから、銀行において被告人がこれらの手形を受領したとの事実を秘匿することは出来ない。

4 ただ、中央工機産業(株)の入金の一部(前記金額)や日産石油化学(株)の入金を架空名義の定期として正式帳簿に記載しなかつたことがあり、これらが被告人の本件脱税を疑われる大きな証拠となつた。

通常は特段の事情がない限り、架空名義預金として正式帳簿に記載しなければ、一応脱税の疑いを懐かせることはあり得る。然し、前述のとおり入金状況は公然としているので、その後の状況を秘匿したとて、頭かくして尻かくさずで、入金後その行先を追求されるから、専門家の税務署員に対し、売上除外の工作をし通せることは不可能である。

5 前記架空義とした理由は被告人側では口を酸くして主張し、公判廷で明らかにしている如く、昭和五〇年当時総評全金京滋支部・大阪支部オルグ指導下の熾烈な組合争議があり、給料諸手当等の賃上げを強く要求され、経理の公開を迫られた結果、止むなく大口入金を一時避難するため、これを架空名義とし、会社の正式帳簿に記載していなかつたものである。

6 そのことは、この期間に入金した大口入金分である日産石油分のみ工番を付していないことから明らかである。これまでの受注品で工番を付していないのはこの一口のみである。つまり、工程を進めるのに妨害が激しく客先に迷惑をかけるので、やむをえず無工番とし外注に頼んだものである。

第一実業一八二四万二〇〇〇円の分も無工番であるが、それは実質はリベートであり工事ではない。

尤も中央工機産業よりの入金は右争議以前と争議中に入金したが、一番大口であり、無工番とすることは出来ず、その一部のみを架空名義として一時避難したものである。検察官は被告会社が中央工機産業に対し、注文書を二つに割ることを依頼し、その内の一部九五八〇万円を正式に帳簿に記載しなかつたことを「恣意的不合理な処理」攻撃しているが、前述の如く入金状況は秘匿せず、その後注文書を二つに割りその一部を秘匿したことは、正に組合対策以外の何者でもないことが明らかとなるであろう。

7 これらは永久に売上より除外してしまう訳ではないから、何れ近い内に架空名義貯金を正式帳簿に受入れるべく銀行にもその旨予告している(証人柏原昭治、同寺田秀雄)。ただ日産石油化学分については処理が遅れてしまつただけである。

8 以上の事実にもかかわらず、原判決が、中央工機分、日産石油化学分について、売上除外を認定したのは不当である。

9 なお、第一実業よりの売上金についてはこれを認めているが、これは次の事情による。

この入金は実は名目は値増金であるが、その実は第一実業においてメキシコ貿易の工作金として使用するために値増金の名目で金を捻出して被告人会社に預託して置き、後日これを右工作金に使うものとして、被告人会社が預かつたものであり、本来預り金である。従つて、工番も付していない。しかし、高額の金であるので労働争議への対策上一時避難と云う形をとつていた。その時期も過ぎたので本来の趣旨通り仮受金として処理した。

然し、客先では値増金として処理しているので、国税局もその通り処理するであろうし、被告人会社として得意先である第一実業から特に工作金として秘密裏に預つたものをその真相を明らかにすることも るべきことであるし、法廷にて第一実業側がこれを認めることもないとあきらめ、被告人会社において収益としてこの責任をとることとしたものである。なお、この入金は手形入金であり、これを除外し去ることが出来ないことは前二例と同様である。また、この点についての原判決の判断は形式的には整合しているが、裏金というものは明らかな形では出さないことを付言しておきたい。

したがつて、この件をもつて、他の二件について判断すべきではない。

第二点 量刑不当について

原判決の刑の量定は、以下に述べる被告人らの情状を考慮するとき重きに失しているので、破棄されるべきである。

(はじめに)

一、仮に被告人会社は否認している点につきその主張が認められないとしても、それは被告人と裁判所の理論的立場の違いに基づくものに過ぎない。被告人及びその社員においては、不当の利益を得ようとして売上計上の時期を操作したものではないし、また法廷で虚偽の供述ないし証言を行なつてきたものでもない。被告人らは良心に従つて正当と判断した基準に従つて主張しただけである。裁判所においてその主張が採用されないのであれば、売上除外、繰延とされることになるが、右の事情は十分斟酌されるべきである。

(売上除外の責任について)

二、日立CPEプラント契約の金九五八〇万円はすでに詳論したように売上除外とは全く言えないものである。日産石油化学の金三〇〇〇万円についても、前記のとおりそのような方法で売上除外するはずのないものである。

これらについて、売上除外を認定されたとしても、それは被告人会社が組合対策のために対組合との関係で隠すつもりが、処理を誤つて売上除外としてしまつたもので、その売上を永久に隠す意図でしたものではない。その犯情は悪質ではない。

また、第一実業の金一八二四万二七〇〇円については、その売上除外を認めざるをえないのであるが、これは前述のとおり、それは外国貿易の慣例としてのリベートであり、被告人会社を通過するだけのものであるが、そのことを証明出来ないということから売上除外であることを認めたに過ぎないものであり、その実質は被告人会社の売上ではないのである。したがつて、売上除外についての被告人会社の情状を検討するにあたつては、その点を考慮されるべきである。

(売上繰延の責任について)

三、原判決の脱税とされるものは、その内容がいわゆる売上を次年度に計上するもので、実質的に国家の租税徴収権を侵害するものでなく、せいぜい次年度に納税が回されたに過ぎないのである。

被告人会社において売上繰延が発生することになつたのは、売上計上時期を正しく認定してもらうために工事原価を付け替える工作をし出したところ、その過程で当初の意図を逸脱するものが生じたのであり、意図的、計画的にしたものではない。そして、被告人会社は、架空の工事経費を計上したのではなく、実際の出費しか工事原価として付替計上していない。したがつて、被告人の犯行は動機において明確でなく、その態様も計画的・緻密でなく、犯情は、悪質ではない。

結果的にも、そもそも売上繰延は最終的には売上に計上し税金を納めるのであり、法人税は四〇パーセントの定率であつて利益がある以上売上をいつの年度に計上しようとその税額に差異をもたらすものではない。したがつて、被告人会社が不当に利得したことになるのは、売上を計上すべき時期と現実に売上を計上した時期の期間の金利だけというべきである(被告人会社はそもそもかかる利得をしようとしたのではない)。

被告人会社の計算による昭和四九年度ないし同五一年度(五〇年五月期ないし五二年五月期)の売上、法人税額は、

昭和四九年度(五〇年五月期)

売上 三億六七九七万〇九五七円(但し修正申告前)

法人税 二六二万九〇〇〇円

昭和五〇年度(五一年五月期)

売上 二億〇〇三七万八三五三円(但し修正申告前)

法人税 三四六万七〇〇〇円

昭和五一年度(五二年五月期)

売上 一億三四七九万〇〇〇〇円

法人税 一六七万一〇〇〇円

で利益を計上している(被告人昭和五二年一一月一八日付質問てん末書問一二)。

さらに、

昭和五二年度(五三年五月期)は、

売上 六億二三三九万四一四三円

であり(同年度の確定申告書添付の決算書)、大幅に増加しており(これは、被告人会社が自己の主張に従つて中央工機からの金二億五四八〇万円等をこの時期に計上したためである)、昭和五〇、五一年度(五一年五月期、五二年五月期)の売上を五二年度(五三年五月期)に繰延べたのでは、一時に支払う金額が増え、被告人会社にとつては苦痛となるほどである。

さらに、被告人会社は、昭和四九年度以前から同様の処理を継続していたのであるから、昭和四九年度(五〇年五月期)、五〇年度(五一年五月期)分の売上に、それ以前の売上が含まれていた可能性がある。したがつて、その分を差引くと結局昭和四九年度、五〇年度の売上は、正確に計上したとしても、被告人会社の実際の申告と変らないと思われる。

また、被告人会社は実際の出費しか工事原価に計上していないから工事のなかには工事原価が少なくなつたものもあり、それについては利益が出すぎていることになる。

したがつて、あれこれ勘案すると、被告人会社は売上繰延によつて利益を得ているかどうか不明である。

(被告人の関与について)

四、被告人は技術者であり、大きな工事については自ら営業も担当しており、国内、海外と出張が多く多忙で、経理のことは岡島や柏原に全くといつていいほど任せきりであつて、その関与の程度は低く、情状は悪質ではない。

被告人の経理に関する態度は、例えば中央工機の金九五八〇万円につき組合に隠すことの指示はしたが、後のことは柏原に任せたという態度(被告人の第二七回公判供述二丁)、あるいは日産石油化学の金三〇〇〇万円について工番を付けずに製作をするということさえ事後的に承諾したに過ぎず、その後のことについては知らないという態度(第二七回公判七丁、八丁)、そして第一実業の金一八二四万二〇〇〇円についての処理も総務部長が考えて、被告人は事後承認したという態度(第二七回公判一〇丁、一一丁)に象徴されている。

仕事が忙しいので、簿外にしていたものを帳簿に戻す指示をしていないのもこのような態度の延長である(第二七回公判一四丁)。例えば、昭和五二年五月の決算期末にも中国へ出張中で、会社に不在であつた。そして、一時的に横にしたものについて公表すべき時期が来れば特に指示をしなくても公表することは、経理の仕事であると考えていたのである。

被告人の態度がこのような態度であるので、被告人は昭和四五年度の税務調査後に岡島から、工事が続いているようにするために原価の付け替えをする旨、明らかに言われたことはない(第二六回公判一三丁)。被告人の記憶では、岡島が未完成工事として正しく認定してもらうために原価を動かそうという意味のことをほのめかしたことがあつたかもしれないという程度のことであり、明確な記憶はない(第三一回公判五丁)。

そして、岡島退社後に、柏原から帳面が付けにくいということを聞いたが、それは岡島と柏原とでは帳簿の付け方が違うのかなと思つただけである(第二六回公判一二丁)。

被告人が原価付け替えのことを明確に知らなかつたことは、被告人の原価の付け替えの理由についての供述の意味が不明であることによく表われている(第二六回公判五丁~七丁)。

この点についての被告人の供述調書の記載を見ても、被告人は売上繰延について「薄々不正をしていたことを知つて」いたというだけであり、決して積極的に関与したのではないことは明白である(昭和五三年二月一〇日付質問てん末書問五)。

もつとも、被告人は高速道路公団により立退を求められた自宅の新築工事の工事代金の一部を被告人会社の工事原価に含めたことがある(但し、これは起訴の対象年度とは異なる)。しかし、これは建築業者に勧められたためつい出来心でした唯一のものに過ぎず、これにより被告人の態度一般を推測するのは不当である。被告人が自ら積極的に脱税をするような人柄ではないことは、公判廷での供述態度等により明らかになつているものと確信する。

(社会的制裁について)

五、被告人会社は、昭和四九年度ないし五二年度(五〇年五月期ないし五三年五月期)の売上高は前述のとおりであり、その四年間の売上合計は約金一四億円であり、平均三・五億円であつた。

しかるに、本件起訴(昭和五三年七月一九日)がなされた昭和五三年度(五四年五月期)以降の売上高は以下のとおり減少し(各年度の確定申告書添付の決算書)、その平均売上高は一・八億である。

昭和五三年度(五四年五月期) 一億五四一八万九一一三円

昭和五四年度(五五年五月期) 一億八九九七万五八四一円

昭和五五年度(五六年五月期) 二億〇九四四万七八五六円

昭和五六年度(五七年五月期) 二億八九五七万八五七七円

昭和五七年度(五八年五月期) 一億〇九五六万五三七三円

昭和五八年度(五九年五月期) 二億〇二四四万四二六三円

昭和五九年度(六〇年五月期) 一億五三五四万三一五六円

これは、昭和五二年まで被告人会社の大口注文先であつた旭化成、第一実業、日立製作所、三井造船の四社が、本件起訴によりその注文を止めたからであつて、被告人会社はそれにより多大の社会的制裁を受けている。

(裁判の不当な長期化による制裁)

六、本件裁判は昭和五三年の起訴以来充実した審理を行つて同五八年にはほぼその審理は終りかけていた。ところが、かかる時期に立合検察官の病気により時間を空費し、しかも担当裁判官の交代が重なつた。そのことにより裁判が遅延し、一層右のような社会的制裁が続くことになつた。

(被告人の反省について)

七、被告人は、売上除外、売上繰延とされることにつき理論的に納得出来ないものについて、裁判において争つてきたが、それは被告人会社の主張の正当性を判断してもらうためである。その被告人の主張の要旨は、空気力輸送装置についての受注は装置の受注も、機器の受注も請負であり、しかも、製作されたものが性能を発揮するかどうかは、試運転してみて初めて分るので、試運転のうえ調整して相手方の検収を受けてから売上に計上すべきであるということである。それは被告人会社が設立当初から採用してきた売上計上基準であり、理論的にも正当なものである。その正当性を裁判所で証明することは正当な権利の主張であり、被告人が反省しているかどうかとは関係ない。そして、被告人会社は右主張の基準から売上繰延とされるものについては認めて争つていないのであつて、その態度は十分反省したものといえる。

しかも、被告人会社は、その修正申告をしたことは調査官山口らの巧みな術策にはまつたもので納得していないのであるが、それに基づき定められた税金については一応すべて納入ずみである。これも被告人の反省の証拠である。

(結論)

八、以上の諸点を考慮すれば、被告人会社に対する罰金金二八〇〇万円の判決、被告人に対する懲役八月(執行猶予二年)の判決のいずれについても、重きにし失している。被告人会社についてはさらに寛大な判決をなすべきであるとともに、被告人には罰金刑の選択が妥当であると思料します。

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